タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

田房永子責任編集「エトセトラvol.1 特集コンビニからエロ本がなくなる日」(エトセトラブックス)-毎号新しい編集長によって作られるフェミマガジンの創刊号。テーマは「コンビニの店頭からエロ本がなくなる日」

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5月の『文学フリマ東京』で購入した中の一冊。「毎号、新しい編集長がいま伝えたいテーマを特集するフェミマガジン」(裏表紙より抜粋)の創刊号になる。編集長は、漫画家でライターの田房永子さん。テーマは『コンビニからエロ本がなくなる日』。

今年(2019年)1月にコンビニ大手の三社(セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマート)は、8月末までに成人向け雑誌の店頭販売を中すると発表した。大人の男性だけでなく、女性や小さい子どもも利用するコンビニの店頭からエロ本がなくなることが決まったのである。

本書には、コンビニからエロ本が消えることに対するさまざまな意見が集められている。

前書きにあたる「はじめに」を読むと、田房さんがなぜ本書を作ろうと考えたのかが記されている。以前から、コンビニでエロ本が売られていることに疑問を感じていた田房さんは、今回のコンビニ各社の決定を歓迎した。一方で、『コンビニからエロ本がなくなる』というニュースが世間的には『ささいな事』として、あっという間に消費されてしまうことに不安も感じた。「これは『ささいな事』じゃない」と考えた田房さんが作った雑誌が「エトセトラvol.1」である。

本書には、さまざまなライター陣が多様な意見を寄せている。フェミニズムに関わるライター、実際にエロ本を扱うこともある書店員、エロ本業界で働く編集者やライター。その他に、SNS等を通じて集まった一般の方々の投稿も紙面を割いて掲載されている。

本書の方向性としては、編集長の田房さん自身がコンビニ店頭でのエロ本販売中止を歓迎する立ち位置であることからコンビニからエロ本が消えることを歓迎する内容に寄っているように思う。ただ、一方的に賛成意見だけが示されているというわけではない。

たとえば、本書には一般読者からの投稿が40本掲載されている。意見の多くがコンビニでのエロ本販売中止を歓迎する内容になっているが、反対意見も掲載されているし、単純な賛成反対の意見だけではなく、エロコンテンツ産業の問題などに関する意見などもある。幅広く意見が掲載されていることで、読者も考えるきっかけを得ることができるようになっているのだ。

エロ本業界で活動するライターやコンビニ販売用のエロ本をつくっている編集者からは、コンビニでのエロ本の売上(2000年代後半には1冊で10万部の売上があり、現在でも3万部程度は売り上げているという)がなくなることへの危機感も示されていて、エロというコンテンツが一定の市場を有していることもわかるのも面白い。

私自身の意見を書けば、コンビニのエロ本販売中止は歓迎している。私は男性であり、エロ本やエロビデオの恩恵を少なからず享受してきた。ただ、エロ本をコンビニで買ったことはない。むしろ、コンビニでエロ本が売られていることは疑問に感じていたし、必要性を感じられなかった。なので、今回の販売中止は単純に良かったと思うし、時代の流れなどを考えれば当たり前だと感じている。

インターネットから気軽にエロが入手できる時代にコンビニでエロを販売する必要性はない、とする意見に対してデジタル弱者である高齢男性からエロを奪うことになるのは問題とする対立意見がある。これも「なるほど」と思う。コンビニが社会インフラとして機能するのであれば、さまざまなニーズを満たす場所としてのコンビニにエロを求めることもあるだろう。ささやかなニーズであるかもしれないが、ニーズとしては確かに存在する。

だが、多少のニーズはあるにしても、それがコンビニでエロ本を販売して良いとする根拠とするには弱い。コンビニ利用者の多くは、コンビニでエロ本を買う必要性を感じていないし、コンビニでエロ本を販売する必要性も感じていない。私も含め多くのコンビニ利用者は、エロ本がコンビニで販売されなくても困らない。

コンビニでエロを手に入れられなくなっても、別の方法や別の場所で手に入れられるようになる。人間の(特に男の)エロに対する欲求は強いのだ。むしろ、コンビニで手軽に手に入る必要はなくていい。そのくらいのハードルはあった方がいい。