タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ニコラ・ド・イルシング/末松氷海子訳、三原紫野絵「なんでもただ会社」(日本標準)-なんでもタダ!なんと甘美な言葉!でも、甘い言葉には必ず裏があるよ、気をつけて!

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無料!タダ!

なんと心惹かれるワードなんでしょう。ランチタイムに入った定食屋さんでごはんと味噌汁のおかわりが無料!とか、ラーメン屋さんで大盛無料!とか、今ならエアコンの取付工事費が無料!とか、世の中には無料・タダが溢れています。そして、人は『無料!タダ!』という言葉に弱いものです。

ニコラ・ド・イルシングの「なんでもただ会社」に出てくる『なんでもただ会社』は、会員になるだけで注文した品物がなんでもタダでもらえるという夢のような会社です。会員登録は名前を教えるだけ。それだけで欲しいものはなんでももらちゃうんです。

ただ、規則がひとつだけあります。それは、注文する品物の最後に『ン』がついているものは注文できないということです。もし『ン』のつくものを注文してしまったら、それまでにもらった品物はすべて返却しなければなりません。もし、ひとつでも返せないものがあったら、宇宙の果てにあるティクサールという星に連れて行かれて、死ぬまで工場で働かされてしまいます。なんとハイリスク!

いたずら好きの少年ティエリーは、両親が留守のある日、電話でいたずらをしていて偶然『なんでもただ会社』につながってしまいます。半信半疑だったティエリーですが、注文したプラスティックのトラックが本当にただでもらえて驚きます。

さあ、本当にただで欲しいものがもらえるとわかったティエリーは次々と品物を注文していきます。ひこうき、トランシーバー、ボール、パズル、きかんしゃ、グローブ、などなど。気をつけなければいけないのは、名前の最後が『ン』にならないこと。でも、『なんでもただ会社』の人はなんとかしてティエリーに『ン』のつくものを注文させようとします。クレヨン、ピンポン、バイオリン。ティエリーは相手の誘導にのせられないように注意しますが、ある時ついに『ン』のつくものを注文してしまいます。

無料やタダという言葉は、ついつい人を油断させてしまいます。とくに食べたいわけでもないのにタダだからと料理を大盛りで頼んでしまい、結局食べきれなくて残してしまったりして。それで学習するかといえば、次も同じ失敗を繰り返しちゃったり。

タダほど高いものはない
安物買いの銭失い

そんなことわざ、格言があります。タダだから安いからと調子に乗って、買ったり食べたりした結果、残るのは後悔ばかりという経験を戒める言葉ですよね。

調子に乗って『なんでもただ会社』からタダで欲しいものをもらっていたティエリーも最後には怖い思いをすることになります。ちょっとしたいたずらのつもりだったのにひどい目にあったティエリーは、きっと自分が調子に乗ったことを反省したでしょう。いたずら好きの性格は変わらないかもしれませんが、注意するようにはなったはずです。

人間は誘惑に弱いもの、でも誘惑に乗って怖い思いをしたり失敗したりしてひどい目にあったら、そのことをちゃんと反省して同じ失敗を繰り返さないように注意することができるのも人間です。

「なんでもただ会社」を読むのは、まだまだ小さい子どもたちだろうと思います。「なんでもタダでもらえるなんていいな、うらやましいな」という気持ちの方が大きいだろうなと思います。だから、この本を読むときはぜひ大人も一緒に読んでほしいです。そして、「甘い誘惑の裏には怖いこともあるんだよ。気をつけないといけないよ」ということを教えてあげてください。大人は誘惑に負けて失敗してきた記憶がたくさんあります。その教訓を子どもたちに伝えることも大人の役割だと思うのです。