タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

チェ・ウニョン/牧野美加・橋本麻矢・小林由紀訳、吉川凪監修「ショウコの微笑」(クオン)ー人と人とのつながり。そこから生まれる物語の奥深さ。

 

ショウコの微笑 (新しい韓国の文学)

ショウコの微笑 (新しい韓国の文学)

 

 

何気なく読み始めて、すぐに「これはスゴイ」と思った。

チェ・ウニョン「ショウコの微笑」は、表題作を含む7篇の短編を収録する短編集である。収録作品は以下の通り。

ショウコの微笑
シンチャオ、シンチャオ
オンニ、私の小さな、スネオンニ
ハンジとヨンジュ
彼方から響く歌声
カエラ
秘密

表題作の「ショウコの微笑」は、文化交流で日本から来た高校生のショウコと彼女のホームステイ先となった私(ソユ)とその家族の物語。祖父、母、私の3人のギクシャクとした家族の中に日本人のショウコが加わることで起きる化学反応。そして立ち上る違和感。

韓国人である私と日本人であるショウコという異なる者同士が交わることで、そこに物語が生まれる。私にとってのショウコは憧れであり、嫉妬であり、わかりあえそうでわかりあえない存在。ショウコは、ソユの家族の間で緩衝材のような存在にもなる。祖父はショウコと日本語で会話し、それはソユがそれまで見たことのない祖父の姿を見せる。

短編集全体に共通するテーマは、人と人とのつながりだと考える。それも、ただ単純なつながりではなく、わかりあえないもどかしさや互いに感じる違和感のようなもの。つながることを望んでいるのに、どこかで拒否してしまうような複雑な感情。そこには、異なる文化、異なる世代という環境のギャップによって生じる不安が横たわっているようにも感じる。

ひとつひとつの物語には、韓国社会の有する問題も背景として存在している。

「シンチャオ、シンチャオ」では、韓国がベトナム戦争で米軍に協力したという事実、韓国軍によって多くのベトナム人が犠牲となったという事実が、ドイツで出会った韓国人家族とベトナム人家族の間に溝をつくる。戦争が終わって、時間が経っていても根底のところではわかりあえない関係は、韓国とベトナムだけではなく、世界中で起きていることでもある。

「彼方から響く歌声」では、フェミニズムが描かれる。韓国は、日本と同じく男性中心の社会で、ジェンダーギャップのランキングでも世界で低い順位にほとんど並んで位置している。「彼方から響く歌声」には、サークル活動で連綿と受け継がれてきた男性優位の序列と、女性が女性を虐げる姿が描かれてて、この問題の根深さを物語っている。

ひとつひとつの作品について細かく語っていくと長くなりそうだ。上にあげた「ショウコの微笑」「シンチャオ、シンチャオ」「彼方から響く歌声」の他の作品も、ひとつひとつがじっくりと読ませる作品ばかりであり、読んだことを誰かと共有したくなる作品である。

どの作品もそれぞれに素晴らしい。読めばきっと、何かの気づきを得られると思う。

 

楽天ブックスで購入の場合はこちら


ショウコの微笑 (新しい韓国の文学シリーズ 19) [ チェ・ウニョン〔崔恩栄〕 ]

Amazonで購入の場合はこちら


ショウコの微笑 (新しい韓国の文学)