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「しししし2~特集ドストエフスキー」(双子のライオン堂)-本屋発の文芸誌第2号。新しいドストエフスキーをお届けします。

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赤坂にある本屋「双子のライオン堂」が年1回刊行する文芸誌が「しししし」である。本書は、その第2号となる。一般発売は2019年1月25日だが、一部書店では先行発売されている。私は、版元でもある「双子のライオン堂」で購入した。

特集はドストエフスキー。一般的な文芸誌が作家の特集を組む場合、さまざまな視点が考えられるだろうがメインは作品論であり作家論になるのではないか。たとえば、

・「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」などの作品解題
ドストエフスキーという作家の生涯とその作風の変遷
ドストエフスキー作品に描かれるロシアの隆盛と衰退

みたいなテーマで文芸評論家やロシア文学の研究者、歴史学者などが論考を組み立てていくようなイメージである。

「しししし2」のドストエフスキー特集は、文学論的な内容からは少し離れた視点で書かれている。寄稿者は、山城むつみ氏、吉川浩満氏、遠藤雅司氏などの批評家、文筆家、歴史料理研究家といった肩書を持つ方々の他、多彩なメンバーが名を連ねる。

山城氏は、「ドストエフスキーについての入門書はなにを読めばいいか」「ドストエフスキーはなにから読めばいいか」という問いに対してそれぞれに作品をあげているが、それよりも面白いのはドストエフスキー占星術師にみてもらった話だ。その結果については、山城氏の寄稿を読んで確認していただきたいが、私はそれを読んでドストエフスキーに対する見方が変わった気がする。なるほど、彼はそういう人だったのかと。いや、占いの結果なので実際のところはわからないんだけどね。

ドストエフスキー特集には、他にも一般文芸誌には思いもつかない多彩さがある。

まず、特集の冒頭に掲載されている伊川佐保子氏の「(ある雌馬の死の間)」と「祈り」の2篇の詩文で驚かされる。この2篇、上段に漢字かな混じりの文章が書かれていて、その下段にすべてひらがなで同じ文章が書かれている。下段の文章を読むとそのからくりがわかる。それは『回文』だ。前から読んでも後ろから読んでも同じ文章になっているのである。回文というと「たけやぶやけた」くらいの短いセンテンスしか思いつかないので、この長さの回文を作れるだけでも尊敬してしまう。しかも、ただ回文になっているだけではなく、それぞれが一篇の詩としてできあがっているのがすごい。

その他、ドストエフスキー特集には、くれよんカンパニーによる「弱い心」の漫画があり、ドストエフスキーに関する同人誌「カラマーゾフの犬」を主催するmerongree氏によるエッセイ、ドストエフスキー作品の誌上読書会(題材は「白夜」「罪と罰」)も収録されている。

「しししし2」のドストエフスキー特集が、他とは一線を画することがおわかりいただけるだろうか。

前号「しししし1」のレビューの中で、私は「しししし」という本屋発の文芸誌が有する意義について書いた。それは、これまでの文芸誌とは違う視点から創られ、私たちに違う視点での文芸誌の楽しみ方を示してくれるのではないかという期待である。今回、前号から1年ぶりに刊行された「しししし2」は、その期待を裏切らかなかった。

特集以外にも読みどころは多い。

創作は、尾崎武氏の短歌、文月悠光氏の詩、横田創の短編、シャーウッド・アンダスン/鴻巣友季子氏訳の翻訳短編が掲載されている。この中では、昨年「落としもの」を読んで完全にその作品の虜になった横田創氏の「わたしの娘」が秀逸だった。どんな話か説明しにくいのだが、ひとつ言えるのは読んでいる間は絶対に気を抜いてはいけないということだ。とにかく油断は禁物。私は最初ちょっと気を抜いたら迷子になった。何回か繰り返し読むことでジワジワと感じ入る作品である。山城むつみ氏と横田創氏の対談も掲載されている。

他にも様々な書き手がエッセイやコラムを寄稿している。また、読書から募集したエッセイから大賞に選ばれた2篇も掲載されていて、それぞれ味わい深く素敵なエッセイなのでオススメしたい。

私は相変わらず文芸誌の熱心な読者ではない。そんな文芸誌に思い入れのない読者でも惹きつけてしまう面白さが「しししし」にはある。他の文芸誌と違って、年1回発行というところも、内容を充実させるという意味ではちょうどいいペースなのかもしれない。

次号「しししし3」は、2019年末に刊行されるはずだ。さて、次はどんな特集を組んでくるだろう。どんなメンバーが書き手となるのだろう。それは1年間のお楽しみである。

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