タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

村山早紀「はるかな空の東」(ポプラ社)-〈千年の歌姫〉の宿命を背負い、呪われた予言と対峙する少女の物語。私も少年だった頃に読んでおきたかった。

ライトノベル系のファンタジー小説を読むのは、もうずいぶんと久しぶりのことだった。

村山早紀「はるかな空の東」は、1997年に刊行された作品に最終章を新たに書き下ろして文庫化された作品である。1993年にデビューした著者の作品の中では初期の頃の作品になる。

邪神セリファエルに祝福され、その呪いすらもその身に受けた魔術師によって双子の王女が生き別れになるところから物語の幕はあがる。王女のひとりは、魔術師によって光の塔へ閉じ込められ、ひとりは宮廷魔術師であるハヤミとその仲間たちによって命を救われ王国から逃亡する。

それから5年、異世界で暮らすナルは夜毎夢に現れる風景に悩まされていた。彼女の夢に現れるのは、いつも同じ少女の姿。その少女はどこか自分に似ているように思えた。

ナルと彼女の夢に現れる少女トオヤのふたりこそ、あの日生き別れになった双子の王女だった。ナルは運命に導かれるようにトオヤの生きる世界へとやってくる。そして、トオヤが幽閉されている光の塔を目指して旅をする。

大人になって少年少女向けに書かれたライトノベル作品を読むと、子どもの頃に読んだのとは違う発見があると、今回「はるかな空の東」を読んで気づいた。

「はるかな空の東」は、何もわからないひとりの少女ナルが、運命に導かれて双子の姉トオヤを救い出すために旅をする物語だ。旅の道中でナルはたくさんの人たちと出会い、ときにその人たちに救われ、またときにその人たちを救う。そこには、人間とは弱い生き物であり、多くの人たちと出会い別れることで弱さを強さに変えられるのだと描かれている。

トオヤを幽閉し世界を滅ぼそうとしている魔術師の強大な力は、弱き人の個の力では立ち向かうことはできない。しかし、ナルはハヤミやミオ、歌姫サーヤ・クリスタライヤたちのサポートを受け、旅を続ける中で自らも成長し能力を開花させることで、強大な敵との闘いという困難に立ち向かう。

初刊から20年を経て文庫化されるにあたって書き下ろされた最終章は、壮絶な魔術師との闘いから20年後のナルたちを描いている。20年後、彼女たちがどのような大人に成長しているのか。私は今回はじめて本書を読んだので、最終章で描かれるナルたちの物語に特別な感傷はなかったが、20年前に本書を読んだナルやトオヤと同世代の子どもだった読者が、ナルたちと同じように成長した大人になって、この最終章を読んだときにどのような感情を抱くのだろうか、少し気になった。

大人になることの意味を考え直しただろうか。
今の自分を見つめ直しただろうか。
あの頃、この本を読んだときの記憶を呼び起こしただろうか。

子どもの頃に読んだ本を大人になって読み返してみると、あの時とは違う感情がわいてくる。子どもの視点とは違う大人の視点で同じ物語を読むことで、あの時とは違うことに気づく。

あの頃読んだ本を大人になって読み返すことの大切さを考えた読書だった。私も20年前に読んでいたら、きっと違う感情になっただろうと思う。もっとも、20年前、もう私は立派な大人だったが(笑)