タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

村山早紀「百貨の魔法」(ポプラ社)-人はなにかを失う。家族、親友、そして夢。でも、何かを失くしたことで見つかるものがある。それはきっと、星野百貨店にある。

村山早紀「百貨の魔法」を読み終えて、まずそう思った。

創業50周年を迎える星野百貨店は、風早の街の平和西商店街にあって、地域の象徴のような存在の店だ。経営状態は、決して安泰とはいえない。大手百貨店グループの傘下に入って一時は危機をしのいだけれど、今また存続が危ぶまれている。地域の人たちから愛されるこの百貨店をスタッフたちも守りたいと思っているけれど、時代の流れに抗うことは難しい。それでも、スタッフたちは星野百貨店を愛し、お客様のために笑顔を絶やすことはない。だからこそ、星野百貨店は愛される。

 

この店にはひとつの噂がある。『魔法の白い猫』の噂。金目銀目の白い子猫を見つけることができたら願い事が叶うという噂。

「そんな話は、ただの噂話だ。本当じゃない」

そう言ってしまうことは簡単だ。だけど、星野百貨店のスタッフたちはそんな野暮なことは言わない。「星野百貨店には願いを叶えてくれる『魔法の白い猫』がいる」なんて、素敵な話じゃないか。だから、お客様から問われたら、笑顔で答える。「信じていればきっと会えますよ」と。

「百貨の魔法」に描かれているのは、喪失の物語であり、希望の物語だ。エレベーターガールのいさなも、靴屋の咲子も、贈答・宝飾品フロアの健吾も、資料室の一花も、そして物語全体を通して謎めいた存在感をもつコンシェルジュの結子も、みんな何かを失ってきた。そして、彼らは星野百貨店という場所に、まるで運命のように集まってきた。そこに自分の居場所をみつけたくて、その場所で新しい何かをみつけたくて。その願いを『魔法の白い猫』が叶えてくれるんじゃないかと思って。

百貨店は不思議な場所だ。欲しいものはなんでも売っている。珍しい品が煌めくようにショーウィンドウを飾り、店内を行き交う人たちはその華やかさに目と心を奪われる。屋上には子どもたちを魅了する小さなテーマパークが広がり、レストラン街には目移りするくらいの美味しそうなお店がお客様を魅了する。地下に降りれば、こちらにも美味しそうなお惣菜やお菓子が並んでいる。

「百貨の魔法」に描かれる『魔法の白い猫』は、百貨店そのものなんだと思う。星野百貨店に、『魔法の白い猫』がいるみたいに、私たちが訪れる百貨店にも、きっと何かの魔法がかけられているに違いない。日本中の百貨店にかけられた『百貨の魔法』で、私たちはそこに並ぶ品々に心を惹かれ、落ち込んだときには力をもらう。そんな素敵な魔法の担い手は、そこに働くスタッフたちの笑顔や立ち居振る舞いなんだと思う。

村山早紀さんは、「桜風堂ものがたり」で全国の書店員に素敵な魔法をかけた。魔法で力を得た書店員たちによって、「桜風堂ものがたり」は私たち読者に届けられ、感動を与えてくれた。

「百貨の魔法」では、全国の百貨店で働くスタッフの皆さんに魔法が届くことだろう。その魔法によって力を得た百貨店スタッフたちは、その力をお客様のために発揮してくれるだろう。そして、百貨店は今よりもっと私たちにとって夢の場所になるだろう。

 

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