東京メトロの赤坂駅から、道順を知っていれば歩いて数分のところに一軒のこじんまりとした本屋さんがあります。
店の名前は〈双子のライオン堂〉といいます。
本の表紙を模したデザインの扉を開けて店内に入るというスタイルは、まさに「本の扉を開けて、本の世界へと足を踏み入れる」という本好きの心を惹きつけます。“本の世界”に入るときは土足厳禁!ということなのでしょうか。店内には靴を脱いで上がります。
『作家の本棚を覗き見ることが出来る選書専門店』というコンセプトで様々な選書者が選んだ本が並ぶ書棚。定期的に入れ替わるフェア棚。どこを見ても必ず自分の好きな本、購買心をくすぐられる本があると感じさせてくれます。
と、つらつら書きましたが、私はこのレビューを書いている2017年9月9日の時点で〈双子のライオン堂〉には1回しか行ったことがありません。でもその1回で、書きつづったような気持ちにさせてもらった気がします。
〈双子のライオン堂〉では、書店として本を売るだけでなく本を作ることもしています。それがこの「草獅子」という文芸誌です。
創刊号となるvol.1の特集は、「終末、あるいは始まりとしてのカフカ」です。
カフカとは、「変身」や「断食芸人」などの著作で知られるフランツ・カフカのこと。特集には、辻原登の綺想短編「フェリーニの都へ」に始まり、室井光広、山城むつみ、川島隆の評論、頭木弘樹訳によるカフカの短編「逮捕」と、やはり頭木弘樹による「マックス・ブロート礼賛」が掲載され、そこにフランツ・カフカ年譜が加わります。
特集の中で私が面白く読んだのは、頭木弘樹「マックス・ブロート礼賛」です。
「マックス・ブロートって誰?」と、中を読むまでは思っていました。マックス・ブロートは、フランツ・カフカの友人で、カフカから彼の死後に彼が書いた日記や手紙、小説の草稿などを「自分が死んだら処分してほしい」と頼まれていた人物です。で、このマックス・ブロートという人、カフカから「処分して」と遺言されていたのに、その約束を破って勝手に出版しちゃったという人物。そのため、後世の評価は裏切り者扱いの低評価となっています。
ですが、彼がカフカとの約束を守らなかったことが、今私たちがカフカの作品を読めることにつながっているわけです。ならば、なぜマックス・ブロートがカフカとの約束を破るに至ったのか。それを、カフととマックス・ブロートの関係性から紐解いていくのが、「マックス・ブロート礼賛」なのです。
特集以外では、「掌編小説の宇宙 絲山秋子の世界」と題して絲山秋子さんの掌編作品が3篇掲載されていたり、「あの町、この書店」と題して東京・谷中の〈ひるねこBOOKS〉や熊本・阿蘇の〈ひなた文庫〉など14の書店にアンケートした結果が掲載されていたりと、バラエティ豊かで読み応えのある作品が盛りだくさんです。
「草獅子vol.1」発刊から1年、第2号の刊行が待たれる中〈双子のライオン堂〉のブログで先日「文芸誌『草獅子』リニューアルのお知らせ」と題する記事が公開されました。記事によれば、予定している特集「宮沢賢治」や一部連載などは継続としつつ、タイトルも含めて大幅なリニューアルが行われるとのこと。リニューアル版となる次号は2017年12月に刊行予定だそうです。
リニューアル版がどんな文芸誌になるか、まだ詳細は明らかになっていませんが、創刊号を上回る内容になることを期待して12月を待とうと思います。