前編はこちらから
休憩中の話
新刊ラインナップ紹介が終わり、しばしの休憩タイムに入ります。参加者たちはこの時間を利用して、ロビーの物販コーナーでサイン会用の本を買ったり、展示物を眺めたり、トイレに並んだり。私も1時間以上座りっぱなしで凝り固まった身体を軽くストレッチしたりしてました。
すると、「こんにちは」と誰かの声が。振り返るとそこには、私も登録している書評サイト「本が好き!」の社長と中の人が立っているではないですか。正直、この日一番のサプライズはこの瞬間でした(笑)。休憩時間中の短い合間で、簡単に挨拶を交わした程度になってしまいました。イベント終わりにちゃんとお話しようと思ったのですが、完全に見失ってしまったのが心残りです。
ゲスト対抗ビブリオバトル!
話をイベントに戻しましょう。
休憩明けのプログラムは、「2017年東京創元社ラインナップ説明会杯争奪ゲスト対抗ビブリオバトル」(長い!)です。ゲスト5名がそれぞれにオススメの本をプレゼンして、会場の参加者が読みたいと思った本に投票してチャンピオンを決定するというのがビブリオバトルです。今回のプレゼンターは、
青崎有吾先生
有栖川有栖先生
池澤春菜さん
岡崎琢磨先生
芹澤恵先生
の5人。まずはくじ引きでプレゼンの順番を決めます。結果は、
1.池澤春菜さん
2.岡崎琢磨先生
3.芹澤恵先生
4.青崎有吾先生
5.有栖川有栖先生
となりました。池澤さんは昨年のビブリオバトルでもトップバッターだったようで、2年連続トップバッターに「何かの力が働いている!」と漏らしていましたが関係者一同スルーしてバトルの開始です。
池澤さんのプレゼンは、最近食べたポルトガル料理の話から。鱈の白子を使った料理が美味しく、同じ素材、同じ調味料でも、使い方によってまったく違う料理に化けるのが楽しいという話からオススメ本の紹介へとスムーズに展開するところが百戦錬磨と言いますか、実にこなれています。で、池澤さんのオススメ本はエドワード・ケアリー「堆塵館」(東京創元社)です。この本は、池澤さんにとって2016年のマイ・ベストにあげられる作品で、前フリとした「同じ素材でも料理法によってまったく違う料理に化ける」を実感させられた作品と力説。話術の巧みさもあって聞き入ってしまうプレゼンでした。
2番手は岡崎先生です。身体を壊しやすく、風邪を引きやすいという岡崎先生がオススメするのは、ジェニファー・アッカーマン「かぜの科学 もっとも身近な病の生態」(ハヤカワ文庫)です。順調にプレゼンを進めていく岡崎先生。と、ここでアクシデントが発生します。タイマーを担当していた方の操作ミスでしょうか、5分の持ち時間を計測していたタイマーがリセットされてしまったのです。アタフタする運営スタッフ、当惑する岡崎先生、茶化す池澤さん(笑)。結局、進んでいた時間までタイマーを進ませるまで待ってからプレゼンを再開しました。ということで、岡崎先生のプレゼンは「タイマーリセット」の記憶しかありません(笑)。
3番手は翻訳家の芹澤先生。人前で話すのは苦手だと言う芹澤先生。今回は、「〆切を10日延ばしてもらった」負い目から参加することになったと、軽く愚痴ったところでオススメ本は、ランサム・リグズ「ハヤブサが守る家」(東京創元社)です。この作品は、ティム・バートン監督の映画「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の原作になった作品です。作中に、登場人物たちを写し出した不思議な写真が散りばめられた、ジャンルとしてはファンタジーになるのでしょうか。
4番手の青崎先生は、いきなり謝罪からスタートです。というのも、当日早朝にNASAが発表した「地球から39光年先にある惑星の7つに水が存在し、もしかすると生命体が存在する可能性がある」というニュースに触発されて、当日になってオススメする本を変更したからです。それが、ニール・ドグラース・タイソン「ブラックホールで死んでみる タイソン博士の説き語り宇宙論」(ハヤカワ文庫)です。天文学者である著者が、宇宙の創生から星の成り立ち、ブラックホールについてなど42のトピックについて記したエッセイ集とのこと。ちなみに、もともとプレゼンを予定していたのは、矢島嵩「少女庭園」(早川書房)だったそうです。
ラストは有栖川先生です。オススメ本は谷崎潤一郎「細雪」(中公文庫他)です。言わずと知れた耽美派作家による関西を舞台にした四姉妹の物語は、谷崎作品をこよなく愛する有栖川先生にとっても好きな作品のひとつだそうで、戦時中の当局による検閲の厳しさの中でこの作品を書き残した谷崎の気骨と合わせてオススメしていました。また、ミステリ作家らしく、同時期に活動していた江戸川乱歩、横溝正史と引き合いに出し、「乱歩は執筆から離れて「貼雑年譜」を作っていた。横溝は古今東西のミステリを読み漁っていた。そして谷崎は書き続けた」と比較していました。
以上で5人のプレゼンは終了。さすがだなと思うのは、各プレゼンターが自分の持ち時間である5分をきっちり使って、わかりやすく本の内容やオススメのポイントを説明してくれたことです。経験という面もあると思いますが、それ以上に「大好きな本について話す」ということで語りも滑らかになっているのではないかと思いました。
全員のプレゼンが終わると参加者による投票タイムです。参加者は、ゲストのプレゼンを聞いて「読んでみたい!」と思った本にひとり1票投票します。結果は、
が見事チャンプ本に選ばれました。
メディアミックス情報&営業からのお知らせ
東京創元社から刊行されている作品には、映画化、ドラマ化、アニメ化されている作品が多数あります。その中から、2017年のメディアミックス展開について説明がありました。
貫井徳郎原作「愚行録」の映画化
サラ・ウォーターズ「荊の城」を原作とする韓国映画「お嬢さん」の紹介
田中芳樹「銀河英雄伝説」のオーディオブック展開
映画「愚行録」(2月18日公開)は、妻夫木聡、満島ひかりの主演。原作は、貫井徳郎先生の同名小説です。ここで、原作の貫井徳郎先生がご登壇され、映画の予告編と昨年のベネチア国際映画祭で「愚行録」が招待作品として出品されたときの模様、石川慶監督のインタビューを収めたビデオが上映されました。上映後、貫井先生からベネチア国際映画祭に出席した際のエピソードが語られました。
続いて、韓国映画「お嬢さん」(3月3日公開)の予告編が上映されます。この映画は、「オールドボーイ」などの作品で日本でも人気のあるパク・チャヌク監督作品で、原作は2005年版の「このミステリーがすごい!」で海外部門1位を獲得したサラ・ウォーターズ「荊の城」。韓国では、成人映画に指定されたにもかかわらず大ヒットを記録したそうです。
メディアミックス情報のプログラム中で個人的に一番心を奪われたのは、田中芳樹「銀河英雄伝説」がプロダクションIGによって新たにアニメ化されるという話題と、オーディオブック展開の話。オーディオブックの朗読を担当した声優の下山吉光さんがご登壇され、「銀河英雄伝説」の一節を生で朗読してくださいました。この朗読がもう鳥肌モノの迫力で、登場人物の声音を巧みに使い分けて演じるように朗読されると、たちまちそこに「銀害英雄伝説」の世界が立ち上がります。ラインハルトが、メルカッツが、今目の前で作戦会議を展開しているような気分にさせられるのです。朗読パフォーマンス後の反応は、今回のプログラム全体の中で一番盛り上がったのではないでしょうか。
最後に営業担当による宣伝がいくつかあり(くらりのLINEスタンプ発売、応募券を集めてくらりのぬいぐるみやブックカバーが当たる春の本まつりフェア)、これにてすべてのプログラムが終了となりました。
サイン会
イベント終了後、ゲストでご登壇された先生方のサイン会が催されました。サインに応じてくれるのは、有栖川有栖先生、貫井徳郎先生、ロビン・スローン先生、青柳有吾先生、廣島玲子先生、河野裕先生です。私は、できれば全員からサインをいただきたいと思ったのですが、時間的な関係もあって、有栖川先生、貫井先生、ロビン・スローン先生から著作にサインをしていただき、ちょっとだけですが会話を交わさせていただきました。
まとめ
今回、抽選に当選して参加する機会を得たわけですが、初めての出版社ラインナップ発表会は思った以上に楽しいものでした。もちろん、一般読者も招待したイベントということで、メディア関係者のみを対象にしたプログラムよりはエンタメ性を高めているのだろうと思いますが、海外からのゲストあり、著名作家たちが次々と登壇するなど、参加者を飽きさせない内容になっているな、と思いました。また来年も(ずいぶん先の話ですが(笑))、機会があれば参加したいです。といっても、抽選に当たらないと参加できないんですけどね。
補足(新刊ラインナップリストから気になった本をご紹介)
会場で配布された2017年新刊ラインナップ一覧には、全52作品(文庫化作品含む)がリストアップされています。リストをそのまま紹介できませんので、その中から個人的に気になった作品をいくつかご紹介してイベントレポを終わります。
【海外ミステリ】
ロバート・クレイス「約束」(2017年5月刊行予定)
ロス市警警察犬隊のスコット・ジェイムズと相棒である雌のシェパード・マギーが活躍する。前作「容疑者」でスコット&マギーのコンビに心奪われちゃった皆さん待望の続編ということになる。この作品には、ロバート・クレイスの別シリーズキャラであるエルヴィス・コールが登場するとのこと。
チャールズ・ボズウェル「彼女たちはみな、若くして死んだ」(2017年夏刊行予定)
ヒラリー・ウォーが「失踪当時の服装は」を執筆するきっかけとなったという犯罪実話集。若い女性が被害者となった10の犯罪について、当時捜査方法や被害者家族の心情などを描き出す作品とのこと。
【その他ジャンル】
マイケル・ザドリヴァン「レジャー・シーカー」(2017年8月刊行予定)
毛根60年でともに80代になるジョンとエラの夫婦。妻のエラは末期がんで夫のジョンはアルツハイマーを発症している。エラは自分の死後にジョンが施設に入れられてしまうことを案じ、ガンの治療を行わずにキャンピング・カーで夫婦の旅に出る。目的地はディズニーランド。果たしてふたりの行く末は? 軽快で魅力的な老人ロード・ノベルとのこと。
以上、「東京創元社2017年新刊ラインナップ説明会」参加レポートでした!
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