紹介されている様々な文豪の家を見ていると、その作家が暮らした環境が作品にも反映されるのだなと感じる。
「世界の文豪の家」は、そのタイトルの通り、世界文学の中で文豪と称される作家たちの暮らした家を紹介する写真集である。紹介されているのは、北米(9人)、イギリス(15人)、フランス(5人)、ドイツ(3人)、ロシア(5人)、北欧とイタリア(4人)の計41人の文豪たち。
最初に紹介されているのは、「モルグ街の殺人」や「アッシャー家の崩壊」などの作品で知られるエドガー・アラン・ポーが結核の妻と暮らしたニューヨーク・ブロンクス地区にある家(「ポー・コテージ」と呼ばれる)は、白い木造のコテージで、ポーはこの家で妻を看取り、晩年を過ごした。
日本でもドラマが放送されて人気のあった「大草原の小さな家」の著者ローラ・インガルス・ワイルダーが暮らした家は、「大草原の小さな家」がローラの自伝的小説でもあるだけに、この場所が、まさに小説の舞台なのだなとドラマの場面を思い出させる。
同じことは、「赤毛のアン」の著者モンゴメリの暮らしたプリンス・エドワードの家でも感じることができる。今にもアンが玄関から飛び出してくるんじゃないかと思えるようなその家は、「赤毛のアン」シリーズを愛読した方なら、いつかは直接訪ねてみたい場所なのではないだろうか。
もっとも多くの作家の家が紹介されているのがイギリスだ。
イギリスの場合、北米作家たちと同じようにロンドン郊外や地方都市の自然豊かな場所に家が建てられているが、アメリカ作家の家が開放的で明るい印象を受けるのに対して、イギリスらしい閉塞感のある建物が多いような印象を受ける。「家は家としての機能を有するべき」と言っているかのようでもある。
「高慢と偏見」で知られるジェーン・オースティンの暮らした家は、ウィンチェスター郊外のチョートンという村にあるという。レンガ造りの無骨な家のダイニングルームにある12角形のテーブルが彼女の執筆スペースだった。
「嵐が丘」、「ジェイン・エア」、「アグネス・グレイ」の著者であるブロンテ姉妹は、イングランド北部ヨークシャー地方のハワースの牧師館に暮らした。「嵐が丘」の舞台はまさにそのハワースである。他の作品にもハワースの風景が反映されているようで、ハワース一帯を「ブロンテ・カントリー」と呼ぶらしい。
北米作家のところでモンゴメリの家が「赤毛のアン」の世界そのものだと書いたが、「ピーター・ラビット」シリーズの著者ビアトリクス・ポターのファームハウスの庭は、あの愛らしいうさぎたちが庭木の間からひょっこりと顔を出してくれそうな場所になっている。ポターは、ファームハウスのあるヒルトップ農場を経営する傍らで数々の本を執筆していたという。
いちいち紹介していると長くなるので、ここから少し駆け足で。
フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーの家は、「これぞ文豪の家」と感嘆させられるような白亜の城だ。来客をもてなるために使われたという赤のサロンの内装は、実に絢爛豪華。他の部屋もユゴーが自ら内装を手掛けたのだという。
ロシアの文豪といえばドストエフスキーとトルストイ。この2人の家は対照的だ。ドストエフスキーは、その生涯の大半をサンクト・ペテルブルグに暮らしたが、およそ30年ほど暮らした20回も引っ越しを繰り返したという。本書で紹介しているのは、彼が最後に暮らしたアパートで現在は博物館となっている。一方のトルストイは、モスクワ郊外のヤースナヤ・ポリャーナという地で暮らした。彼はそこの地主でもあったという。転居を繰り返しながら名作を執筆し続けたドストエフスキーと地主として土地に根付き長大な作品を書き上げたトルストイ。生活環境が作品に与える影響を知ることができたような気がする。
その他、どのような作家の家が紹介されているかは出版元のエクスナレッジの作品紹介ページで確認してほしい。冒頭にも書いたように、その作家の作品が生み出された環境をうかがい知ることで、作品への理解とか印象がいっそう深まったり、新しい発見があったりすると思う。すでに読んだことのある作家なら、もう一度あの本を読んでみようかという気になるし、まだ読んだことのない作家だったら一度読んでみようかという気になる。こうしてまた読書の世界が広がっていくのである。
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