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【書評】ラ・フォンテーヌ「ラ・フォンテーヌ寓話集」(洋洋社)-シンプルかつユーモアのある物語が教えてくれる人間の弱さと面白さ

「すべての道はローマに通ず」

ラ・フォンテーヌ寓話

ラ・フォンテーヌ寓話

  • 作者: ラ・フォンテーヌ,ブーテ・ド・モンヴェル,大澤千加
  • 出版社/メーカー: ロクリン社
  • 発売日: 2016/04/11
  • メディア: 単行本
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この有名な言葉を残したのが、17世紀のフランスの詩人ラ・フォンテーヌである。そのラ・フォンテーヌが書き残した数々の寓話から26編を収めたのが本書「ラ・フォンテーヌ寓話集」だ。

 

ラ・フォンテーヌという人物を知らなくとも、本書に収録されている寓話にはなじみ深いものがある。冒頭に収録されている「セミとアリ」(私たちには「アリとキリギリス」がなじみがある)は、夏の間遊び呆けて冬に食べるものがなくなってしまったセミが、夏の間しっかりと働いて冬に備えていたアリの家を訪ねて救済を求めるが、ケチなアリはけんもほろろに拒絶する。

この寓話から得られる教訓は、「みんなが遊んでいるときに、まじめにしっかり働くことの美徳」であり、「遊んでばかりいると後で苦しむことになるぞ」ということ。だが、今回大人(というかオッサン)になってみて読んでみると違った一面もあるように思える。遊び呆けていたセミは確かに責められるべきではあるが、貧困にあえぐセミに救いの手を差し伸べようとしないアリの態度も心の狭いさもしい態度のように思えたのだ。もしかすると、現代社会においては、「セミとアリ」から得られる人間性が変化しているのかもしれない。

26編の寓話の中で印象深かったのは、「オオカミと子羊」という話だ。

常に強い者の理屈がまかり通ってしまう。
ということを、いまからお見せしよう。

と始まる物語は、川のほとりで水を飲む子羊をみつけたオオカミがなんやかんやと子羊にいちゃもんをつけて責めたて、挙げ句の果てには子羊を森の奥まで連れ去るとあっさり食べてしまうというストーリーだ。普通に考えれば、オオカミは悪であり、最後には弱き子羊が救われてオオカミが懲らしめられる展開になりそうだが、「オオカミと子羊」では弱きは強きに征服されてしまう。まさに弱肉強食の物語なのである。

「オオカミと子羊」のような、ある意味で現実的な物語は寓話ならではだと思う。寓話とは、その物語から教訓を得ることを目的としている面は薄くて、その時代の世相を皮肉たっぷりに描きだすものだ。直接的に権力を批判するのではなく、動物や昆虫に置き換えて比喩的に描き出して遠回しに批判する。「オオカミと子羊」は、当時の権力者(貴族層)と庶民の関係性を皮肉ったものだ。そして、その構造が今の時代においても読者の共感を得られるとすれば、当時と今で権力者と庶民の関係性や格差というものが、何も変化していないということなのだ。

全26編の寓話を読み通してみて、そのすべてが現代社会にも通じる話になっていると感じた。人間の営みというものはそう簡単には変化しないのだなということなのだと思う。