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【書評】横田宏道「ソニーをダメにした「普通」という病」ーあのソニーがなぜダメになっていったのか、その理由はあなたの会社にも当てはまるかもしれない

日本初のテープレコーダー、日本初のトランジスタラジオ、トリニトロンテレビ、ウォークマン、ベータマックス、などなど。

 

ソニーをダメにした「普通」という病

ソニーをダメにした「普通」という病

 
ソニーをダメにした「普通」という病

ソニーをダメにした「普通」という病

 
ソニーをダメにした「普通」という病

ソニーをダメにした「普通」という病

 

 

私のような昭和世代にの人間にとって、ソニー製品は憧れの的だった。《技術のソニーといわれ、世界に先駆けた新しい技術を開発し、画期的な商品を世に送り出していた。

それだけに、2000年代以降のソニーの凋落ぶりが社会に与えたショックは大きい。2003年決算での大幅な赤字によって生じた株式市場の混乱は、ソニーショック》といわれた。その後、経営的には持ち直したところはあるが、かつての《ソニーブランド》は完全に衰退してしまったといっても過言ではないだろう。

ソニーをダメにした「普通」という病」の著者横山宏道氏は、かつてソニーの生産管理部門に所属していた。退職後は外資コンサルティング会社等に勤務し、現在は自ら経営コンサルタントとして活躍されている横山氏が、元ソニーマンとして、ソニーがダメになってしまった原因を記したものが本書である。

タイトルは「ソニーをダメにした」となっているが、内容を読むと「ソニー」に限らず日本企業の多くに当てはまるように思う。

例えば、「第1章:日本企業型「普通病」に蝕まれたソニー」には、多くの企業で耳にする「会社のため」という考え方に苦言を呈する。

横山氏がソニーに入社した時、創始者のひとりである盛田昭夫氏が入社式のスピーチで言った言葉に横山氏は驚く。

ソニーで働いても楽しめないと思ったら、すぐに辞めなさい」
ソニー創始者である盛田さんがまだ健在であった頃、入社式での盛田さんのこのスピーチに吃驚仰天するところから、新卒のソニー人生は始まることになっていた。
これは、会社と社員がもたれ合うことのない、ソニーの持つ独立自尊の企業文化の宣言であり、人は「会社のため」に働くのではない、という既存社員も含めた社員全員への年に一度の強烈なメッセージだ。
だから、本来ソニーでは、「会社のため」に働くなんてあり得ない。ソニーという会社を通じて、「社会のため」に働くのだ。それこそが、働く個人にとっての社会的な自己実現の道であり、この上なく楽しいものである。

私も含め、会社員として組織に所属して仕事をしている場合、「会社のために働く」という思考が当たり前になっている。

・会社の成長のために働く
・会社の利益のために働く
・会社の知名度をあげるために働く

社会のためでも、家族のためでも、自分のためでもなく、「会社のため」が組織に属して働く会社員の当たり前の発想になっているのだ。それは、もはや会社教の教えに洗脳された状態であるかのようだ。

「会社のため」ということしか考えていないから、お客様や社会に対して不利益と思えることでも、会社にとって有益であれば躊躇なく実践してしまう。そういう状況が、数多くの不祥事へとつながっているのではないだろうか。

また、本書では昨今の経営者の資質についても言及している。

ソニーは、創業者である井深大氏と盛田昭夫氏のカリスマ的な経営があって今日のソニーブランドの礎を築き上げた。その他。ホンダの創業者である本田宗一郎氏、サントリー創業者の鳥井信治郎氏など、かつてカリスマ経営者、創業者といわれた方々と比べると、現在の経営者には経営者としての矜持があり、と同時に自らの高いポリシーがあったように思う。しかし、本書にもあるように、今の経営者は、経営者ではなく投資家としての側面が大きくなっていて、利益追求、コスト削減にばかり取り組んでいる。そして、自らのポリシーもなく、考えることを放棄して、それを現場の社員に求めている。社員に対して、「もっと経営者視点で考えろ」と鼓舞するが、社員が経営者視点で考えて働くのであれば、経営者は何をするつもりなのか。存在価値がなくなるのではないか。

私が関わった会社でも、カリスマ性の高かった初代社長の時代には利益追求やコスト削減を声高にすることがなくても、会社は右肩上がりで急成長していた。ところが、初代社長が病に倒れ、二代目、そして現在の社長へと受け継がれていく中で、企業価値は暴落し、売上があがらなくなり、結果として利益追求、コスト削減、社員はもっと経営的視点をもて、というお決まりのパターンへと落ちていった。今、その会社は優秀な人材の流失が止まらない状況だと聞き及んでいる。

先述したように、本書はソニーの凋落がなぜ起きたのかを元ソニーマンのコンサルタント視点で書き記したものだが、内容はソニーに特化したものではなく、多くの日本型企業にあてはまるものだ。

ソニー」という社名を自分が働いている会社の名前に置き換えながら本書を読んでみると良い。書かれている内容がことごとく自分の会社の実体に当てはまると感じたら、その会社はすでに凋落の道に踏み入れているのかもしれない。