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【書評】安堂友子「日本文学(墓)全集 時どきスイーツ」(ぶんか社)-文豪の墓を巡り、ちょっと寄り道してスイーツを楽しむためのコミックエッセイ

《ハカマイラーなる言葉があるのを初めて知った。漢字混じりで書くと《墓マイラーである。

日本文学(墓)全集 時どきスイーツ

日本文学(墓)全集 時どきスイーツ

 
日本文学(墓)全集 時どきスイーツ

日本文学(墓)全集 時どきスイーツ

 

 

《墓マイラー》とは、各地にある有名人のお墓を訪れ、線香を手向けて祈ることを趣味とする人のことである。有名人のお墓を訪ね歩く人がいるのは知っていたけど、そういう人を《墓マイラー》と呼ぶとは知らなかった。けっこう一般的な言葉なのだろうか。

さて、本書は、《墓マイラー》たちの間でも定番と思われる文豪の墓を巡り歩くコミックエッセイである。

ただ、著者自身は《墓マイラー》という訳ではなく、そこはまあ仕事のネタである。なので、ただ墓参りをするだけではなく、墓参りのついでに、近くのカフェや甘味処などを訪ねてスイーツを楽しもうという、どっちがメインだかよくわからない趣向が盛り込まれている。

本書で墓を巡った文豪は14人。

太宰治
夏目漱石
芥川龍之介
樋口一葉
江戸川乱歩
十返舎一九
小泉八雲
志賀直哉
川端康成
滝沢馬琴
井伏鱒二
谷崎潤一郎
林芙美子
池波正太郎

の面々。それぞれ都内や鎌倉などに墓がある。

正直、文豪の墓を巡る部分とスイーツに関する部分に関連性がないため、ただ墓参りをして甘いものを食べるだけの話になってしまっているのが、なんとも物足りない。それぞれの作家のエピソードも盛り込まれているのだけれど、全体のまとまりが感じられないため、残念ながら印象がぼやけてしまっているように感じてしまった。

似たような趣向のコミックに、「文豪の食彩」があるが、あちらはとりあげた文豪とゆかりのある料理の組み合わせで構成されていたので、全体的なまとまりが感じられて、「あの文豪が食べた料理を食べてみたい」という衝動に駆られるが、本書ではそういう衝動に駆られることがなかった。というのも、本書で紹介されているスイーツは「文豪のお墓の近くにあるお店で食べられる」というだけで、決して文豪とは縁もゆかりもないからだ。その上、中には近くに手頃な店がないという理由でコンビニスイーツを紹介する回もある。そうなると、もはや何がしたいのかすら見えなくなってしまう。

「文豪と食(甘味)」という組み合わせは、これまでにも使い尽くされているネタだと思う。それをあえて取り上げて作品化するのであれば、もう少し工夫があってよかったんじゃないの?と素直にそう思うところである。