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ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」(文春文庫)-戦慄の猟奇連続殺人の残酷さが、ラストに待ち受ける衝撃を助長させる。はっきりいって、かなりのイヤミス

2014年の翻訳ミステリーは、1冊の本が話題と評価を独占した。ピエール・ルメートル「その女アレックス」である。

「その女アレックス」は、パリ警視庁犯罪捜査部の警部であるカミーユ・ヴェルーヴェンが活躍する作品だが、そのカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第1作であり、ピエール・ルメートルのデビュー作にあたるのが、本書「悲しみのイレーヌ」だ。

悲しみのイレーヌ (文春文庫)

悲しみのイレーヌ (文春文庫)

 
悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

 

パリ郊外クルブヴォアのロフトで発見されたふたりの若い女性の死体。それは、様々に残酷な凌辱を加えられ、バラバラにされていた。現場に残されたスタンプから、事件は、トランブレ事件と呼ばれる未解決の女性切断事件と同一犯による連続殺人の可能性が浮上する。そして、カミーユはトランブレ事件の被害者の様子が、ある小説の描写をそっくりと模していることに気づく。

事件被害者の類似点。それは、小説に描かれる残酷な殺人描写を忠実に再現していること。それに気づいたカミーユたちは、過去の未解決事件と様々な小説の殺人描写が共通しているものの洗い出しを行う。結果、トランブレ事件、クレブヴォア事件を含む5つの未解決事件が浮上する。

ただ、小説の殺人描写を模倣した連絡殺人事件という筋立ては、本書の軸をなしているというわけではない。これら連続殺人事件は、犯人のある目論見を効果的に実現するための通過点にすぎないのだ。犯人が狙う最終的な目的こそが、本書に仕掛けられた最大のギミックを効果的に読者に提示するための大いなる伏線となっている。

ネタバレになるので、本書に仕掛けられたギミックを具体的に解説することはできないが、私がそのギミックにいきついたときには、思わず第1部の最初から、ポイントとなりそうな部分を再読してしまった。

さて、本書「悲しみのイレーヌ」だが、リードにも書いたように「かなりのイヤミス」である。ラストで、この連続殺人を起こしてきた犯人は逮捕される。しかし、その終わり方には気色の悪さ、重たい空気が支配していて、読後感は悪い。読み終えて、最後のページを閉じるときには、どんよりとした気分になる。

なお、タイトルの「悲しみのイレーヌ」は、日本題である。原題は“Travail Soigné”、直訳すると「職人の技」となる。本書を読み終わってみると、なるほどこの原題の意味がわかるような気がする。

最後にひとつ。「その女アレックス」をすでに読んでいる人にとっては、本書の内容、ラストはネタバレになっている。なので、まだ「アレックス」を読んでいない方は、絶対に「アレックス」に触れないほうが良い。特に「アレックス」の登場人物一覧は見てはいけない。まあ、「悲しみのイレーヌ」というタイトル自体がネタバレと言えなくもないのだが。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 
その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)