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読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

一筋縄ではいかない、多種多彩な変化球を堪能する−ヘレン・マクロイ「歌うダイアモンド」

ミステリー作家の短篇集となると、必然的にミステリー短編を集めた傑作選となるのだろう。そんな安易な考えで読むと足元を掬われる。それが、ヘレン・マクロイ「歌うダイアモンド」だ。

歌うダイアモンド (マクロイ傑作選) (創元推理文庫)

歌うダイアモンド (マクロイ傑作選) (創元推理文庫)

 

原著は、1965年に出版された自薦短篇集「The Singing Diamonds and Other Stories」これに「人生はいつも残酷」を加えて、2003年に晶文社から刊行されたのが最初で、本書はその文庫化再刊ということになる。

収録作品は、全9篇。

「東洋趣味(シノワズリ)」
「Q通り十番地」
「八月の黄昏に」
「カーテンの向こう側」
「ところかわれば」
「鏡もて見るごとく」
「歌うダイアモンド」
「風のない場所」
「人生はいつも残酷」

最初に書いたように、ヘレン・マクロイが本格推理、サスペンス、ホラーといったジャンルを得意とする作家と知った上で本書を読むと、ミステリー色は当然のように感じながらも、さらに多彩な作品に遭遇する驚きを得るだろう。

中でも、SFに分類される作品(「Q通り十番地」、「八月の黄昏に」、「ところかわれば」、「風のない場所」)は、マクロイ読者的には、驚かされた作品のようだ。

「Q通り十番地」は、合成食品が常食となった近未来世界を舞台にしたディストピア小説と読めるし、「八月の黄昏に」は、子供の頃に父親とUFOを目撃した主人公が、成長して宇宙船を開発し宇宙に飛び立つ物語だが、ラストで主人公の夢幻を思わせる場面が用意されている。

不思議でユーモラスな作品ということでいえば、「ところかわれば」のシニカルさも捨てがたい。異星人とのファーストコンタクトを題材としたSFなのだが、その視点が180度違っている。なにしろ、「地球人」こそが主人公たちにとっての異星人なのだ。

その他、ミステリー短編もそれぞれに面白いと思ったが、「ところかわれば」をはじめとするSF作品の方に、マクロイの魅力を感じてしまった。

ただ、マクロイの他の作品を読むかと問われると、今はまだ保留状態だ。なぜなら、「歌うダイアモンド」の中で私が気に入ったのは、前述のとおりSFテイストの作品であり、ミステリー短編は面白かったけれど、それ以上の感想はない。

そもそもヘレン・マクロイは、ミステリー作家である。もちろん、そんじょそこらの凡百なミステリー作家とは雲泥の差のある作家であろう。その長編作品なども実際に読んでみればハマってしまうのかもしれない。

だけど、今ここでマクロイに手を出してはいけない。きっと、後戻りできなくなるに違いないから。部屋に未読のマクロイ本が山積みになっている様子が、私には見えるのである。