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「ジョン」早助よう子/自費出版-『絶対』とは、実は曖昧で危ういものなのだということを考えさせる短編集

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早助よう子「ジョン」の存在は、「本の雑誌10月号」に掲載された大塚真祐子さんの『新刊めったくたガイド』で知った。

 

「ジョン」には、表題作を含む9篇の短編がおさめられている。さまざまな商業誌に掲載された短編が7篇と書き下ろしが2篇だ。

ジョン
エリちゃんの物理
図書館ゾンビ
陸と海と
家出
この件に関して、わたしたちはこのように語った
おおかみ
アンナ
負債

著者のデビュー作でもある「ジョン」は、柴田元幸責任編集の「monkey business」に掲載された作品。その関係から、本書の帯には柴田さんの推薦コメントが寄せられている。

「ジョン」は、ホームレスを支援する支援者グループで活動するようこが、活動中に亡くなったホームレスが飼っていたジョンという犬をなんとかしてくれないかと相談されるところから物語ははじまる。だが、その後の展開はジョンをめぐる物語とはならない。なぜなら、ようこたち支援者も犬を飼うような余裕はないからだ。

支援者とホームレスは、支援するものと支援されるものの関係にある。だが、その関係は絶対的なものではない。支援者たちもギリギリのところで支える側に立っている。だが、彼らもいつ支援される側にまわるかわからないのだ。「ジョン」という物語の中にあるのは、そういう関係の絶対性の危うさなのではないだろうか。

例えば「図書館ゾンビ」は、大学図書館に勤める派遣職員の視点で描かれる物語だが、そこには正規職員と派遣職員、学生ボランティア、職場体験の中学生とともに、“図書館利用者ゾンビ”と呼ばれる利用者が登場する。図書館利用者ゾンビは、派遣職員たちからは愛されキャラだ。しかしながら、大学図書館としてはゾンビの存在は邪魔でしかない。ゾンビは、誰かには愛されていて、誰かには憎まれている。ゾンビの存在は、彼と対峙する人間の考え方によって意義が変わる。そこには、絶対的な存在価値はない。

本書全体に共通してあるものは、『絶対性の曖昧さ』なのだと私は考える。人間同士の関係性や人間の持つ価値観、親子関係、ジェンダー性。そのどれにも“絶対”はない。なぜなら、そういったものはどれも、私たちひとりひとりの考え方、思想によって変わるからだ。そのひとりひとりの変化をさまざまな角度からさまざまな描き方で表現しているのが本書なのだ。

とても読み応えのある短編集だ。私の中では、昨年(2018年)に横田創「落としもの」を読んだときに匹敵する衝撃があった。しかも、本書は自費出版本なのである。これだけの作品集が出版社からではなく、個人として刊行されていることにも驚いた。

自費出版本なので、ほとんどの書店では売られていないし、Amazonなどでも扱っていない。私は、ネットで検索して、蔵前にある「H.A.Bookstore」の通販サイト「HABノ通販」で販売されていたのを見つけて購入した。その他、hayasukejohn@hotmail.comに直接メールで注文して購入することも可能とのことです。

 

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