父、ヘイヴン・ペックに……
父は寡黙で穏やかで
豚を殺すのが仕事だった。
ロバート・ニュートン・ベック「豚の死なない日」は、息子と父の物語だ。
主人公のロバートは、著者ロバート・ニュートン・ベック自身である。「豚の死なない日」は、ロバート・ニュートン・ベックの自伝的作品なのだ。
12歳のロバートは、学校に通いながら父ヘイヴンの農場を手伝っている。家族はシェーカー教徒であり、その暮らしはつましい。父は読み書きができないが、働き者であり、農作業のことで知らないこと、できないことはない。ロバートは、父の背中をみて成長し、父を尊敬していることがわかる。
本書は、1972年に刊行された著者のデビュー作である。著者がデビュー作に父との物語を選んだことに、父への尊敬の念と深い絆が感じられる。
物語を通じて、ロバートは少年から青年へと成長する。まだまだ幼くて未熟だと思っていた少年が、様々な出来事を経験することで立派にひとりだちしていく。ありがちなストーリーと言ってしまえばそれまでだ。だけど、そういう当たり前のストーリーだからこそ、胸に刻まれるものがあると感じる。
男の子にとって父親というのは、最初に身近に接する大人の男であり、憧れの存在である。私自身、自分が父親と呼ばれる年齢になった今でも、父親は憧れの存在であり、人生でもっとも信頼し尊敬する人物だ。そして、一生かかっても追いつくことができない存在でもある。
「豚の死なない日」での、ヘイヴン・ベックとロバート・ニュートン・ベックの関係は、私がみても理想的な親子関係だと思う。息子は、常に父を意識し、父のために頑張ろうと努力する。父は、息子の成長を頼もしく感じ、優しく厳しく自分の経験を教え伝えようとする。
物語の終盤、ロバートが大切に育ててきた豚のピンキーが不妊症であることがわかり、彼女を殺処分することになる。残酷なようだが、農家にとって繁殖能力のない家畜は役に立たない。それは仕方のないことだ。ロバートは、ヘイヴンがピンキーを殺す作業を手伝う。かわいがってきたピンキーが、目の前で殺されていく。ロバートは、父を憎む。憎みながら、それ以上に父を尊敬する。
「これが大人になるということだ。これが、やらなければならないことをやるということだ」
父は息子にそう言い聞かせる。それは、息子はこれからひとりで生きていかなければならないことを言い聞かせているようだ。父の支えがなくても、自分で考えて、自分の力で生きていけと伝えているようだ。
少年はこうして大人になる。