タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

吉澤康子+和爾桃子編訳/アーサー・ラッカム挿絵「夜ふけに読みたい不思議なイギリスのおとぎ話」(平凡社)-子どもの頃、寝る前に読み聞かせてもらったおとぎ話。そんな気分でゆっくり楽しみたい一冊です。(一気読みしちゃったけど)

 

 

赤ずきんちゃん」「さんびきの子豚」「ジャックと豆の木」などなど、子どもの頃に読み聞かせてもらったり、絵本で読んだりしたおとぎ話を19編収録しています。編訳は翻訳家の吉澤康子さんと和爾桃子さんです。案内役として登場するねこのチェシャとチェッコもカワイイです。

収録されているおとぎ話には、冒頭に紹介したように誰もが子どもの頃に聞いたり読んだりした有名なおはなしもありますし、あまり知られていないおはなしもあります。知っているおはなしでも、子どもの頃に読んだ内容と全然印象が違っているおはなしもあります。「さんびきの子豚」や「赤ずきんちゃん」は、読んで思わず「知ってるのと違う!」と(心の中で)叫んでしまいました。

大人向け、というか子ども向けにアレンジしていないおとぎ話を読んで感じるのは、おとぎ話は想像以上に残酷だし、期待以上に示唆に富んでいるということです。本書に収録されている19編の中にも、残酷なおはなしがあります。けっこう頻繁に登場人物は死んでしまうし、首をちょん切られたりします。本書では、そういう残酷なシーンが含まれているなどの配慮が必要なおはなしには目次で『☆』のマークがついています。

残酷なおはなしばかりではありません。継母にいじめられていた娘が最後には幸せを掴むおはなしや、不器用でみんなにはバカにされているけど正直に生きていれば報われるおはなしがあります。いろいろなタイプのおはなしが楽しめるのも、おとぎ話の良さなのだと思います。面白く読んで、読み終わったときに何かに気づける。それが、おとぎ話なのだと思います。

読んでいて印象に残ったおはなしは「めんどりペニー」です。

ある日、めんどりペニーが干し草を積んだ庭で小麦をつっついていると、ポコッ! どんぐりが頭に落ちてきました。

と始まるおはなしで、どんぐりに驚いためんどりペニーが「たいへんだ、空が落ちてくる」と王さまに知らせに行こうとする道中を描いています。めんどりペニーがとことこ歩いていくと、おんどりロッキー、アヒルのダドルズ、ガチョウのプーシー、七面鳥のラーキーが次々と加わっていきます。仲間が増えるたびに「めんどりペニーとおんどりロッキーとアヒルのダドルズと、ガチョウのプーシーと七面鳥のラーキー」と全員の名前を呼ぶので、その繰り返しが面白いのです。私は「めんどりペニー」を読みながら、『落語の「寿限無」みたいだな』と感じていました。読み聞かせをするなら「めんどりペニー」が一番面白いと思います。

おとぎ話の数々をより楽しくしているのが、アーサー・ラッカムによる挿絵です。特徴的な挿絵によって、おとぎ話の世界観や登場人物たちの表情がイメージできるのが魅力的です。

アーサー・ラッカムは、今から150年くらい前の1867年にイギリスで生まれた挿絵画家で、本書に収録されているおとぎ話の挿絵の他にも「不思議の国のアリス」の挿絵を描いたりもしています。本書の案内役チェシャとチェッコは、ラッカムの飼いねこの名前です。ラッカムとねこの写真も本書には掲載されています。

『夜ふけに読みたい』とありますから、おはなしをひとつずつゆっくりと楽しみたいところです。でも、ひとつおはなしを読み終えると「次のおはなしはどんな内容なんだろう?」と気になってしまって、ついついやめられなくなってしまう。なので、1回めは一気にドーンと読んでしまって、あとからお気に入りのおはなしをひとつひとつ読み返してみる。そんな読み方をオススメしたいです。