タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ピョン・ヘヨン/きむふな訳「アオイガーデン」(クオン)-人智の及ばない恐怖と日常のそばにある恐怖。大きな恐怖を乗り切っても安心できない。

 

 

www.e-hon.ne.jp

巻頭に収録されている短編「貯水池」から読み始めた。

女子学生の服が貯水池の裏の森で見つかるところから話は始まる。最近、長い失踪のあと死体で発見されるケースが頻発しているのだ。失踪したまま見つからない人もいる。女子学生も、死体はまだ発見されていない。

不可解な連続失踪事件をめぐるミステリー小説と思った。しかし、すぐにそれは違うと気づく。森に建つ家。そこにいる得体の知れない何者か。一番目と二番目と三番目がいる。じっと息を潜め、森をうろつく警察官たちを見ている。

物語はこうして一気に恐怖をまとっていく。腐った肉の臭いがページから立ち昇ってくるかのようなグロテスクな描写が続く。嫌悪が胸に込み上がってくるが、読むことをやめることができない。

表題作「アオイガーデン」は、疫病が蔓延し、住民たちが逃げ出してゴーストタウンと化したアオイガーデンが舞台の近未来ディストピア。頼る者もなくアオイガーデンに取り残された家族の物語。

全8篇が収録されていて、前半の4篇が「アオイガーデン」という短編集から、後半の4篇が「飼育場の方へ」という短編集からそれぞれ選ばれていて、日本オリジナルの短編集となっている。

二冊の作品たちは互いに人見知りしているのかもしれない。

と、巻末の『著者のことば』にあるように前半4篇と後半4篇は味わいが違っている。

「アオイガーデン」から収録された4篇(「貯水池」「アオイガーデン」「マンホール」「死体たち」)は、悪臭のたちこめるグロテスクなホラー小説である。その小説世界は、残虐であり、胸を抉るような恐怖が支配する。

「飼育場の方へ」から収録された4篇(「ピクニック」「飼育場の方へ」「パレード」「紛失物」)は、日常の中にある恐怖や不安が描かれる。あまり気の乗らないドライブによってもたらされる恐怖。強制執行の通知書が家族に投げかける不安と恐怖。観客の笑わせるはずのパレードの団員に笑顔はなく、会社では上司の圧力と自らの保身によって社員が追いつめられていく。

非現実的な世界がもたらす得体のしれない恐怖と、自分にも同じことが起きるかもしれないという不安をもたらす恐怖。異なる方面から襲いかかる恐怖は、読者をとらえて追いつめる。

本書の恐怖は、読者に逃げ場を与えない恐怖だ。大きな恐怖を乗り切ったとしても安心できない。だが、それこそが本書を、ある意味で楽しむポイントなのだと感じる。そこに、幅広くセレクトされているからこその魅力があると思う。

 

Amazonで購入する場合はこちら


アオイガーデン (新しい韓国の文学シリーズ)

 

楽天ブックスで購入する場合はこちら

 


アオイガーデン (新しい韓国の文学シリーズ 16) [ ピョン・ヘヨン ]