タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ベッキー・アルバータリ/三辺律子訳「サイモンvs人類平等化計画」(岩波書店)-LGBTを扱っているからと構える必要はなし!メル友に恋い焦がれるサイモンの恋の行方を描いた激甘の青春ラブストーリーです。

「お前のメール、読んだよ」と、マーティンが声をかけてきた。そこから、サイモンの悩み多き日々が始まる。サイモンの秘密、それは自分がゲイであること。マーティンが目にしたサイモンのメールは、彼が偽名で同じゲイのメル友ブルー(こちらも偽名)とやりとりしていたものだった。マーティンは、サイモンの秘密を誰にも言わない代わりに、アビーとの仲をとりもつように要求してくる。

ベッキーアルバータリ「サイモンvs人類平等化計画」は、16歳の少年サイモン・スピアーが、友人のニック、リア、アビーの微妙な恋愛関係や両親、姉アリス、妹ノラとの楽しくも大げさな家族愛に揉まれて成長していく物語である。そこに、彼がゲイであること、それを家族や友人にいつどういう形でカミングアウトするかということ、秘密を握られたマーティンとの関係をどうするということ、などなど様々な悩みが重なっていく。

こう書くと、LGBT問題を扱った複雑な話かと思ってしまうが、実際にはどこにでもいる16歳の少年少女が繰り広げる青春ラブストーリーであり、それもかなり激甘な話なのである。

サイモンは、自分がゲイであると認識したときから、この秘密をいつどうやってカミングアウトしたらいいか悩んできた。そんなときに偶然タンブラーでみつけたのがブルーの告白だった。そして、サイモンは『ジャック』としてブルーとメル友になったのだ。

この物語には大きく2本の軸がある。サイモンがいつどうやってカミングアウトするかサイモンが恋い焦がれるメル友ブルーとは誰なのか

この2つの課題だけでも、サイモンにはハードルの高い悩みだ。そこに加えて、ニックとリアにアビーが絡んでできあがった微妙な三角関係に巻き込まれ、アビーに思いを寄せるマーティンから脅迫のような要求をされたりと厄介な状況が起きる。

ただ、そんな中でもサイモンは、当たり前の16歳の少年としての日々を過ごしている。高校生の日常なんてそんなものだ。学校に行って勉強して、クラブ活動に汗を流して、昼休みや放課後に友人たちと他愛のない遊びにふける。両親はちょっと口うるさくて、過保護で大げさなところがあるけど、それだって別にいやじゃない。そんな日常の中では、恋愛だってするし、自分の存在について悩んだりもする。

LGBTというテーマを描いているけれど、それも日常の中で自然にあることとして描かれているのだ。

サイモンは、本人の意図しない形でカミングアウトすることになる。でも、そのことで彼がイジメを受けたりすることはない。むしろ、周囲は彼に理解を示し、彼を守ってくれる。

そして、サイモンはブルーが誰かを知る。サイモンとブルーは、本当の恋人となる。

カミングアウトそしてブルーとの恋人関係が成立してからの描写は、いろいろなものから解放されたサイモンの気持ちが全力で表現されている。特にブルーとの恋愛については、デートの場面も、学校で隣りに並んで授業を受けている場面でも、どんな場面でもサイモンの幸福度MAX状態が描かれていて、読んでいて恥ずかしいほどにふたりのイチャイチャが半端ない(笑)。

海外文学だし、LGBTを扱っている作品は難しそうと思わずに、青春ラブコメライトノベル感覚で読んで楽しい作品です。