タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

デイヴィッド・グラン/倉田真木訳「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」(早川書房)-謎の連続怪死事件とその真相にせまる緊迫のノンフィクション。私の中ではオールタイム・ベスト級の作品。

この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称などはすべて架空であり、実在するものとは関係ありません。

ドラマの最後に流れるテロップがある。ときどき、ミステリ小説などのフィクションでも掲載されていることがあったりする。それに倣うなら、本書はこう書くべきだ。

この作品はノンフィクションです。本書に書かれていることは、すべて実際に起きたことであり、登場する人物、団体、名称などに架空のものはありません。

デイヴィッド・グラン「花殺し月の殺人」は、1920年代のオクラホマ州オセージ族の保留地で起きた謎の連続怪死事件の真相と、その事件をきっかけに組織として設立、拡大することになる連邦捜査局(FBI)の誕生を記したノンフィクションである。

事件は『花殺し月』とオセージ族が呼ぶ5月に起きる。オクラホマ州グレーホースに住むモリーバークハートは、数日前から行方不明の姉アナを心配する日々を送っていた。アナは奔放な人で、数日家に帰らないことはそれまでにもあったが、今回はどこか様子が違っていた。

モリーの心配は的中する。アナが頭部を撃たれた死体となって発見されたのだ。モリーは、夫アーネストのおじで『オセージヒルズの王』と崇められたウィリアム・ヘイルの力を借り、アナ殺害事件の捜査がされるようにするが思うようにならない。それどころか、次々とモリーの周囲の人たちが不審な死を遂げていく。

連続怪死事件の背景にあるのはオイルマネーの存在だ。モリーたちオセージ族が住む地域には、地下資源として石油があった。石油を採掘するためには、土地を所有するオセージ族にリース料とロイヤリティを支払う必要があり、その金によってオセージ族は富める部族となっていたのである。

オイルマネーという巨万の富をめぐる思惑があり、謎の連続怪死事件が起きる。この展開が、1920年代のオクラホマ州で実際に起きた事件であると、にわかには信じられなかった。本書を読んでいる間、ずっと頭の片隅で「本当はフィクションなんじゃないか」と疑っている自分がいた。

事件は、解決する目処もまったくつかないまま時間ばかりが経過した。そこに登場するのが後に連邦捜査局(FBI)となる組織の捜査員だ。局長フーヴァーの指示を受けてトム・ホワイトがオクラホマに赴任したことで事件は解決に向けて歩み始めるのである。

様々な証言、あらゆる証拠を積み重ねて、ホワイトたちは事件の核心へと近づいていく。ホワイトたちに対抗するように犯人グループも買収や脅迫などさまざまな手段で抗う。

以下はネタバレとなるので、未読の方はご注意ください。

 

インディアン連続怪死事件は、「オセージヒルズの王」と崇められ、地元で絶大な権力を有していたウィリアム・ヘイルを首謀者とし、モリーの夫アーネスト、アナの姿を最後に見たというアーネストの弟ブライアンを含む数人によって起こされた連続殺人事件だった。ホワイト捜査官は、ついに彼らを逮捕し法廷の場に引きずり出す。だが、ヘイルはその絶大な影響力によって陪審員を買収し無罪の評決をとるための権謀術策を巡らす。

警察小説的な面白さがあり、緊迫する法廷劇が展開する。その構成をとってみても、本書が普通のノンフィクションとはまったく違うものだとわかる。ノンフィクションでここまで先の展開が気になる作品には、そう出会えるものではない。ヘタなミステリー小説よりも全然ミステリーとして面白いのだ。本書が翻訳ミステリー小説であったら、年末のベストテンで絶対に上位にランクインしていたに違いない。

展開は、ウィリアム・ヘイルが有罪となり刑務所に収監されたところで終わる、のではない。その先にまだ驚くような物語が待ち受けているのだ。本当に最後の最後まで目を離すことはできない。

100年前に起きた事件の謎と解決への顛末、そしてその後の物語がこれほどに面白いとは想像もしなかった。これまでに読んだノンフィクションの中でもオールタイム・ベストといえる作品だった。