タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

東野圭吾「ラプラスの魔女」(角川書店)-それは偶然なのか、それとも奇跡なのか。不可解な死の真相にあるものとは。

 

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

 

 

「数学者のラプラスは御存じですか。フルネームはピエール・シモン・ラプラス。フランス人です」桐宮玲が青江に訊いてきた。
ラプラス? いや、聞いたことがないな」
「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる--」(以下略)

東野圭吾ラプラスの魔女」は、ある意味で、とてもアンフェアなミステリだと思う。

本書で書かれる事件のトリックは、荒唐無稽でありえないように思える。しかし、東野圭吾は強引とも感じられる力技で読者に納得感を与えてしまう。多少なりとも専門的な知識があれば疑問を感じるだろうし、非現実的であると断言するだろうが、私のように理系の知識に乏しい人間からすれば、「現実にありえるのかも?」と感じてしまう。まんまと著者の思惑に乗せられてしまう。

本書は、遠く離れたふたつの温泉で起きた2件の死亡事故の謎を解くミステリ小説である。被害者の死因はいずれも硫化水素による中毒死だ。この死亡事故(結果的には殺人事件なのだが)を中心に、過去と現在がある特異な事象とともに絡まり合って大きなストーリーを展開していく。

物語のキーパーソンは大きく4人いる。地球化学を研究する大学教授の青江修介。開明大学の研究所に住む謎めいた少女羽原円華。かつて円華と同じく開明大学の研究所に暮らし失踪した少年甘粕謙人。そして、謙人の父であり映画監督の甘粕才生。

彼らは、それぞれに関連し、それぞれに思惑を有し、大きな対立を生み出している。究極の理想を追求するあまりに家族を犠牲にした父と、彼への復讐を誓う少年。少年の思惑を察知し彼を止めるために動く少女。その中に巻き込まれるように存在する研究者。

甘粕親子の関係性と異常性、甘粕謙人と羽原円華が身につけている超人的な能力、そうした特異な世界観の中で唯一の凡人が青江であり、彼の存在がわれわれ読者の立ち位置である。青江は、自分が見聞きしたことのすべてに驚愕し、不信感をもち、研究者としての好奇心によって事件に深く入り込んでいく。それはまさに、読者が経験することである。

正直、物語としては面白く(そこはさすがに東野圭吾だと感じた)、読み始めると止められなくなるのだが、読み終わってみるとモヤモヤしたものが残る。それは、なんとなく納得しているように感じるのだけれど、完全には理解しきれないトリック(謙人と円華の能力)のためなのかもしれない。

 

ラプラスの魔女 DVD 豪華版(3枚組)

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