タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

エリザベス・ウェイン/吉澤康子訳「ローズ・アンダーファイア」(東京創元社)-ひとりの少女の人生を狂わす強制収容所での過酷な現実におもわず目を背けたくたる。しかし、それが戦争の現実。

「コードネーム・ヴェリティ」を読んだ余韻をもったまま、姉妹編となる「ローズ・アンダーファイア」を読んだ。「コードネーム・ヴェリティ」が、伏線とその回収の見事さを含みつつ、戦争文学、青春と友情の物語として傑作と感じただけに、本書も期待して読んだ。その期待は、間違っていなかった。

 

s-taka130922.hatenablog.com

 

主人公は、イギリス補助航空部隊に所属するアメリカ人飛行士のローズ・モイヤー・ジャスティス。本書は彼女の手記の形をとっていて、大きく3つのパートにわかれている。

「第一部 サウサンプトン」では、まだほんとうの意味での戦争の怖さを実感していないときのローズが描かれる。戦争の最中であっても、ローズは少女らしい恋愛を経験し、仲間や家族との幸せも感じられている。第一部で描かれる彼女の姿は、それゆえに、第二部で描かれる苛酷な強制収容所での日々をより一層残酷にみせる伏線のようにも思える。

「第二部 ラーフェンスブリュック」で描かれる強制収容所での苛酷な日々は、まさに地獄絵図だ。身ぐるみを剥がされ、髪を刈り落とされてラーフェンスブリュック強制収容所に入れられたローズが見たのは、シュモーツィッヒと呼ばれる物乞いたちの姿であり、人間としての尊厳を奪われる地獄であった。

その地獄で、ローズはローザという名前のポーランド人の少女と出会う。ローズは、ローザの足をみて驚愕する。

彼女の両脚は半分に割れていたのだ。見たところ、そんなふうだった。両方のふくらはぎに、膝裏から足首にかけて、指の第二関節まで入れられそうな深くて長い裂け目があった。

 

人体実験の材料とされたローズたちポーランド人の少女は“ウサギ”と呼ばれている。足の筋肉を削ぎ落とされたり、骨を切り取られたり、想像するのもおぞましい人体実験の数々には、思わず目を背けたくなる。

強制収容所での日々は、確実にローズの人生を狂わす。明るかった性格も失われ、恐怖のトラウマだけが彼女を支配する。強制収容所を仲間とともに脱走し保護されたローズは、パリのホテル・リッツの部屋に閉じこもり、強制収容所での日々を書き記していく。書くことで、彼女は少しずつ自分を取り戻しているのだ。

そして、「第三部 ニュルンベルク」では、ローズたちの再生が描かれる。

ドイツから帰還して1年半後、ローズはニュルンベルクで行われる国際軍事裁判の傍聴人席にいた。ローズの隣りにはローザがいる。ふたりの目の前では、強制収容所で“ウサギ”たちに行われた残虐な人体実験の裁判が進行していた。証言台には、実験により身体を傷つけられたウサギたちがいる。その姿は、ローズとローザに勇気を与える。読者である私たちに勇気を与える。そして、そのときからローズたちの新しい人生が始まっていく。再生の日々が始まっていく。

この物語は、大筋ではフィクションである。しかし、著者があとがきで記しているように、ラーフェンスブリュックは現実にあったことであり、ウサギたちに対する残虐な人体実験もナチスが実際に行ったことだ。これは、戦争の現実を私たちに伝えるために著者が記した叫びでもあるのだ。

冒頭に書いたとおり本書は「コードネーム・ヴェリティ」の姉妹編にあたる。「コードネーム・ヴェリティ」に登場したマディやアンナが本書にも登場する。すでに「コードネーム・ヴェリティ」を読んでいるなら、ふたりがその後どういう運命をたどったかを本書で確認してほしい。まだ未読ならば、ふたりが過去にどのようなことを経験してきたのかを確認するために「コードネーム・ヴェリティ」を読んでみてほしい。

 

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

 
コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)