タカラ~ムの本棚

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新井見枝香「本屋の新井」(講談社)-こんどのエッセイ集は、ちゃんと本と本屋の話です

三省堂書店の書店員新井見枝香さんのエッセイ集第2弾。初エッセイ集「探しているものはそう遠くはないのかもしれない」では、本や本屋の話はあまり(というかほとんど)なかったけど、本書「本屋の新井」は、本と本屋とその周辺の話が書かれている。

s-taka130922.hatenablog.com

 

本書は、出版業界紙「新文化」に2014年から連載されている「こじらせ系独身女子の新井ですが」に、noteの記事や書き下ろしを加えたエッセイ集である。

note.mu

書店員が書いた本に何を求めるか。そう問われれば、やはり「本に関する話」、「本屋さんで起きた面白い話」、「作家さんとのエピソード」を求めたくなるのは、読者としては正しい。その、読者としての正当な要求を綺麗に華麗に裏切ったのが、前作「探しているものはそう遠くはないのかもしれない」であった。本や本屋さんに関する話がまったくないわけではなかったが、そのほとんどはアラフォー独身こじらせ系女子の日常(そこそこイタい)であった。そのことに賛否両論あったと思うが、個人的には書店員が書いたエッセイ本なのに本の話がほぼないところが面白かった。

初エッセイ集に本や本屋さんの話題がなかったことに不満を感じていた方にとって、本書は満足できる内容になっていると思う。一応、全編が本や本屋さんに関する話である。連載媒体が『出版業界紙』なので、やはりその方面の内容になっているのだろう。

読んでいて、ところどころハッとさせられた。

例えばPOPの話。新井さんの店(三省堂書店神保町本店)に行くと工夫をこらしたPOPがディスプレイされているのをよく見る。三省堂書店に限らず、全国の書店でPOPやフリーペーパーを作って、書店としてイチオシの本の販促PRが行われている光景が、けっこう当たり前になってきている。このPOPは、すべて書店員さんが時間外に作成しているという。本を売るのが仕事の書店員さんだが、売るための販促POPを作る時間は業務時間に含まれていないことが多い。好きな本をみんなに読んでほしいからというモチベーションがあるからできることなのだろう。

本屋さんで写真を撮ることについてのエッセイもある。多くの本屋さんでは、店内の撮影は禁止されている。それは、本の特定のページ(ガイドブックのお店情報とか)をスマホのカメラで撮影する『デジタル万引き』を防止する目的がある。しかし、「本屋はシャッターチャンスの宝庫」とエッセイで書いているように、前述した書店員渾身のPOPなどは撮影してSNSで拡散すればより一層の販促にもなる。「シャッター音が『いいね!』に聞こえる」こともあるのだ。

面白おかしいエピソードもたくさんあるし、本屋さんの苦労だったり、考え方だったりを率直に書いているエッセイもある。今度のエッセイ集は、ストレートに書店員としての新井見枝香の言葉が溢れていると思った。

探してるものはそう遠くはないのかもしれない

探してるものはそう遠くはないのかもしれない

 
探してるものはそう遠くはないのかもしれない

探してるものはそう遠くはないのかもしれない