タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ペティナ・ガッパ/小川高義訳「イースタリーのエレジー」(新潮社)- #新潮クレスト・ブックス #創刊20周年 ジンバブエを舞台にして描かれる様々な人間模様

ジンバブエは、アフリカ南部に位置する国だ。南アフリカ共和国の北側に位置する内陸国で、長くイギリスの植民地であり、ローデシア紛争を経て1980年に『ジンバブエ共和国』として独立した。ムガベ大統領による長期独裁、インフレ率2億パーセントなどというハイパーインフレーションを引き起こしたことでも知られている。

イースタリーのエレジー」の著者ペティナ・ガッパは、ジンバブエ出身の作家である。ジンバブエ大学で学び、オーストリアグラーツ大学、イギリスのケンブリッジ大学に留学して国際商取引法に関する博士号を取得、ジュネーブの国際貿易機関に勤務と著者略歴に記されていることから、相当のエリートということになるのだろう。

イースタリーのエレジー」には、13篇の短編が収録されている。

軍葬ラッパが鳴り終えて
イースタリーのエレジー
アネックスをうろうろ
ロンドンみやげ
黄金の三角地帯の真ん中で
ムバンダワナのダンスチャンピオン
ジュネーヴにて、百万ユーロの賞金
ララパンジから来たメイド
ジュリアーナ叔母さんのインド人
ロージーの花婿のひび割れたピンク色の唇
妹いとこランバナイ
妥協
真夜中のホテル・カリフォルニア

舞台となるのはもちろんジンバブエだ。独立前後の混乱、長期独裁、ハイパーインフレと国の情勢はけっして明るいとはいえない。人々の暮らしも厳しい。しかし、本書に収録された短編にはユーモラスで思わず笑ってしまうような作品もある。

たとえば「ジュネーブにて、百万ユーロの賞金」は、ジュネーブの国連事務局にあるジンバブエ共和国政府代表部の領事官をしている男に『重要なお知らせ』というメールが届いたことから始まるドタバタを描く。誰もがピンとくるだろう。そのメールは詐欺メールだ。

「ご当選のお知らせとお祝いを申し上げます」とはじまるメールは、「百万ユーロの賞金に当選しました。いますぐご返信ください」と続く。インターネットの詐欺メール、迷惑メールの類を知っている人なら内容も見ずにゴミ箱行きにするようなメールだ。しかし、受け取った男はこれを信じてしまう。すぐに返信し、そこからズルズルと詐欺の被害の中へ落ちていく。

不安定な国内の政治情勢、経済情勢から、周辺のアフリカ諸国に比べてもジンバブエ後進国だ。貧富の差も激しく、誰もが、どうにかして貧困から脱出したいと願う。「ジュネーブにて、百万ユーロの賞金」をはじめ、収録作品に共通しているのは、人間としての欲深さであり、欲深さが見え隠れする中で過ぎていく人々の日常だ。

読んでいる間、ジンバブエで生きることのつらさや息苦しさのようなネガティブさは、ほとんど感じなかった。ところどころに記されるインフレのこと、政治情勢のことがかすかに遠くにジンバブエの状況を感じさせるが、主に描かれるのは人間関係のちょっとドロっとした一面であったり、ユーモラスな一面だったり、どこにでもありそうな、どこででも起きていそうな日常で、共感できるところも多かった。