タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

村山早紀「星をつなぐ手-桜風堂ものがたり-」(PHP研究所)-桜の町に佇む一軒の本屋・桜風堂書店。月原一整の新しい門出に心からのエールを贈りたい

ある事件で銀河堂書店を辞めることになった月原一整が、大小の桜の木々に囲まれてある『桜風堂書店』で書店員として再スタートを切るまでを描いた「桜風堂ものがたり」は、本を愛する者の心を掴み、書店と書店員への愛に溢れた作品だった。「桜風堂ものがたり」を読んだときの感動は今でも鮮やかに私の胸のうちにある。

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「星をつなぐ手-桜風堂ものがたり-」は、桜風堂書店と月原一整のその後を描く物語の続編であり完結編である。

体調を崩した店主に代わって桜風堂書店を切り盛りすることになった一整は、時代物の人気シリーズ「紺碧の疾風」の最新刊が桜風堂書店に一冊も配本されないことに頭を悩ませていた。「紺碧の疾風」シリーズの新刊を買ってくれるであろうお客様の顔を思い浮かべながら、一整は小さな個人経営の書店を営んでいくことの厳しさを実感していた。

それでも、一整には彼を助けてくれる仲間がいた。銀河堂書店のかつての同僚たちも、桜風堂書店がある桜野町の住人たちも、彼が愛し心をこめて売ってきた本の作家たちも。みんな桜風堂書店が大好きで、若い書店員である一整を応援し支えてくれる。彼は、自分でも気づかないうちに、誰からも慕われ、一目置かれる書店員に成長していた。

「桜風堂ものがたり」を読んだときも感じたことだが、本書からも作者・村山早紀さんの書店への愛、書店員への愛と感謝の気持ちが強く感じられた。

「桜風堂ものがたり」で村山さんは、団和彦に書店員へのメッセージを託した。本書では、高岡源がその役割を託されている。高岡は、「紺碧の疾風」シリーズを手がける人気作家だ。彼は、一時期スランプに陥り作品を書くことができなくなった。それを救ったのは、銀河堂書店で見た若い書店員がお客様に「紺碧の疾風」シリーズの面白さを丁寧に想いを込めて伝えている姿だった。高岡はその姿に励まされ、スランプを脱出できたのだ。

「桜風堂ものがたり」では、「四月の魚」をベストセラーに導くきっかけを作ってくれた一整に、団重彦がこう伝える。

ありがとうございます。わたしにとってあなたは、奇跡を起こす魔法使いでしたよ。

「星をつなぐ手」で、高岡源は、

きみはね、わたしにとって恩人なんですよ。

と伝える。そして、スランプに陥ったときのエピソードを話し、こう伝える。

それを見たとき、わたしは思ったんですよ。自分の書く原稿は、本になってそれで終わりじゃないんだって。こうして、本を、読み手に渡すひとがいる。原稿を書いたわたしの思いまで預かるようにして、ありがとうございます、と、本を手にするひとに頭を下げるひとがいる。
ひとりじゃないんだ、と思ったんですよ。

団重彦の言葉も、高岡源の言葉も、どちらも村山早紀さんの言葉だ。自分の本を読者に届けてくれる全国の書店員への感謝のメッセージだ。

村山さんは、書店への愛が深い人だと思う。作家だからではなく、『村山早紀』個人として書店が好きなんだと思う。その愛情が、本書には込められている。

愛が深いからこそ、街から本屋の灯を消したくないという思いも強いと感じた。ネットで気軽に欲しい本が買える時代に、街の本屋はどういう存在であればよいのか。本書にはそういう問題も記されている。

書店を愛し、書店員を愛する村山さんにとって、桜風堂書店と月原一整は、こうあって欲しいと願う理想の書店像、書店員像なのだと思う。

でも、それはただ理想であるということではない。まだ見知らぬ桜風堂書店が、まだ見知らぬ月原一整が、どこかに静かに佇み、お客様が来るのを待っている。柔らかい陽射しが注ぐ店の扉を開けると、そこにはたくさんの素敵な本が並んでいる。そして、優しい笑顔の書店員が「いらっしゃいませ」と迎えてくれる。そういう店がどこかにあると村山さんはきっと信じていると思う。

きっと、私を含め、本が好き、本屋が好きで、大好きな本を届けてくれる書店員に感謝の気持ちのある人は、村山早紀さんが描く桜風堂書店や月原一整が大好きだ。いつか桜風堂書店に行ってみたい。いつか月原一整に会ってみたい。現実の世界にも、きっと理想の本屋があるだろうと信じて、私は今日も本屋の扉を開けようと思う。

桜風堂ものがたり

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桜風堂ものがたり

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百貨の魔法

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