タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

横田創「落としもの」(書肆汽水域)-不思議で不気味で癖になる。そんな味わいの短篇集

書店の店頭で見て、なんだか気になる本というのがある。横田創「落としもの」は、まさにそういう本だった。

著者は、2000年に「(世界記録)」という作品で群像新人文学賞を受賞し、2002年には「裸のカフェ」で三島由紀夫賞の候補にもなっている。これまでに「(世界記録)」、「裸のカフェ」、「埋葬」を刊行しているが、現在はどれも新刊での入手は難しい。余談だが、Amazon横田創の著作を検索したところ単行本第一作となる「(世界記録)」には5万円の価格がついていた。

本書「落としもの」は、前作「埋葬」以来、およそ8年ぶりの単行本である。版元『書肆汽水域』は、東京丸の内の「KITTE」4階にある「マルノウチリーディングスタイル」という書店を手がけた北田博充氏が立ち上げた出版社だ。

jptower-kitte.jp

「落としもの」には、「ユリイカ」、「新潮」、「群像」、「すばる」に2007年から2009年にかけて発表された6篇の短篇が収録されている。

収録作品
 お葬式
 落としもの
 いまは夜である
 残念な乳首
 パンと友だち
 ちいさいビル

冒頭に収録されている「お葬式」を読んだときには、まだ普通の短篇集だと思っていた。祖母のお葬式で火葬場に行くことを拒む母。長い介護生活の疲れと母を失った悲しさが彼女をそうさせているのだろう。特に奇をてらったわけでもないように思えた。

ところが、読み進めていくと次第に作品のおかしさが見えてきた。それは、「お葬式」だけではない。収録されているすべての作品が、不思議で不気味な雰囲気を醸し出しているのだ。

表題作「落としもの」は、タイトルの通り、『落としもの』に異様な執着を見せる女性の話である。落ちている物が気になって仕方がない。取り残されて迷っている見ると落ち着かない。放置されている雑草も気になる。彼女はあるとき、飼い猫が家を抜け出していくあとをついていく。そして、究極の『落としもの』を見つけるのである。

それぞれの短篇は、読み始めこそ、ややもするとありきたりな印象を受けてしまうが、すぐにそれが間違いであると気づく。読み始めは、「あぁ、そういう話なのね」とわかったような気持ちだったのが、いつしか「なに、この展開、どうなるの?」と期待が膨らみ、さらに読み進めていくと「・・・」と言葉を失い、最後には「とんでもないものを読んでしまった」とため息をつく。

この感じの物語は、好き嫌いがはっきり分かれるだろうと思う。私は完全に好きなタイプの物語だ。横田創という作家の存在を今まで知らずにいたのがもったいないと思ったほどに、本書でその作品世界にハマってしまった。過去に発表、刊行された作品がすべて本書の同じタイプの作品かは、実際に読んでみないとわからないが、過去作品への期待値はあがっているので、探して読んでみようと思っている。