タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

ジェフ・ブラウン文、トミー・ウンゲラー絵/さくまゆみこ訳「ぺちゃんこスタンレー」(あすなろ書房)-ぺちゃんこになっちゃったスタンレーくんの冒険物語は理屈抜きに面白い。でも、それ以上にスゴイのは彼のご両親の寛容さだったりします。

 

〈はじめての海外文学vol.3〉の児童書部門に推薦されている中のひとつ。推薦者は、〈やまねこ翻訳クラブ〉会員でもあるないとうふみこさん。

ある朝、大きな掲示板の下敷きになってしまったスタンレーくん。すぐに掲示板を取り除けてみると、なんとそこにはぺちゃんこになったスタンレーくんが、ぐっすりと眠っています。「これが一大事!」と普通の家族ならあわてることでしょうが、ラムチョップ家は違います。とりあえずは朝ごはんを食べてからお医者さんに行くのです。

ぺちゃんこになったスタンレーくんですが、それで何か生活に支障が出ているかというと、そんなことはなくて普通に生活しています。で、周囲の人たちも彼がぺちゃんこであることをあまり気にしている様子もありません

さて、ぺちゃんこになったスタンレーくん、その特性を利用していろいろなことにチェレンジします。

例えば、スタンレーくんはカリフォルニアに住むお友だちのトマスに会いに行くことになります。でも、ニューヨークからカリフォルニアまでの航空運賃は高い。そこで一計を案じたのがお父さんです。彼は、大きな封筒にスタンレーくんを入れて郵便でカリフォルニアに送ろうと考えます。その方が安くつくからです。大きな封筒にスタンレーくんを入れ、郵便ポストに投函するラムチョップ家の家族。客観的にみると実にシュールな絵です。

この場面、「ぺちゃんこスタンレー」でも人気なのでしょう。実際に、スタンレーくんの紙人形を親戚や友だちに送って旅をさせるという遊びがアメリカでは行われたりもしているそうです。

とにかく、全編を通じて思うのは、ぺちゃんこになったスタンレーくんの日常的な冒険の数々が理屈抜きに面白くて、「自分もスタンレーくんみたいにぺちゃんこになって冒険したい!」と子供心が刺激される物語だなぁ、ということ。そして、それ以上に「スゴイ!」と思うのは、スタンレーくんのご両親の息子に対する接し方です。

郵便の話もそうですが、とにかく物語の全編を通じてお父さんもお母さんもスタンレーくんやアーサーくんを否定することがありません。ぺちゃんこになってしまった息子にあわてることもありません。自分の子どもに体験させるには危険だと思えるようなことも、けっして否定したり叱ったりせず、子どもの思ったようにやらせるのです。

美術館で連続する盗難事件を解決するため、スタンレーくんがある計画を実行したときもそうです。そんな危険なことでも、子どもが自分で考えたことを両親は思ったようにやらせます。その結果、スタンレーくんは見事に泥棒をつかまえるのです。

大人の理屈で子どもの発想を拒絶したりしない。そんな両親に育てられたラムチョップ家の子どもたちは、きっと豊かな発想で世界を動かすような大人に成長するに違いありません。

この本は、子どもには理屈抜きの面白さを与えてくれます。そして、大人には子どもに対する正しい接し方を教えてくれるのです。