タカラ~ムの本棚

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北野勇作「水から水まで」(惑星と口笛ブックス)−摩訶不思議な世界を映し出す9つの物語

 

水から水まで (シングルカット)

水から水まで (シングルカット)

 

 

北野勇作「水から水まで」は、「水」からはじまって「水」に至る9つの掌編で構成されている。

ひとつひとつの掌編は、それぞれに独立した物語として読むこともできる。そして、9つの掌編が結びつき、「水」から「水」までの一連のストーリーが姿をあらわしたときに、物語はひとつの短編小説として目の前に立ち上がってくる。

 

最初の「水」は、町に響くどおどおどおという水音に導かれるように、水路を上流に向かって水源を目指す道すがらを描く。そして、最後の「水」の冒頭には彼岸花をたどって水源に着いた。」と記される。水源に向かって歩き出した物語は、最後の水源に到達するのだ。その道程の中で、曲がりくねった場所を辿り(「曲」)、暗い穴に吸い込まれていく老人たちを見送り(「穴」)、壊れてもこもこと黒い煙をあげている釜を横目にしながら(「釜」)、見渡す限りのすすきが原の波間に身を委ねる(「波」)。銀色の海を過ぎてみれば、何やらトラブルの気配。夜道の歩くうちに大蛇に丸呑みにされてしまったようだ(「蛇」)。さて、どうしたものかと大蛇の腹の中を出口を求めて歩いていけば、その先にも何やら不条理な世界が見えてくる。それでも、水路沿いの道を歩く。町外れの道を歩きながら星がもっと見えないかと暗くなるのを待っている(「星」)。やがて、道は一本道となり、その長く曲がりくねった一本道をぎっしりと人が溢れ、同じ方向に向かってノロノロと歩いている。一本道はやがて洞窟の入り口へと続き、たくさんの石がそこに転がっている。川原の石は積み重ねられていて、そこにはヒトの意思がある(「石」)。

道は「曲」がり、老人は「穴」に吸い込まれ、壊れた「釜」はもうもうと黒い煙をたなびかせている。生い茂ったすすきの「波」の間を通って、「蛇」に飲み込まれるアクシデントもくぐり抜けた先には、暗い空にたくさんの「星」がまたたく。「石」がゴロゴロと転がった一本道はやがて目指すべき「水」源へと至る。

ときに、物語は静謐であり。
ときに、物語はさわがしく。
そこには、幻のような景色があり。
夢のように時間が流れる。

なんだか掴みどころのない物語と感じられた掌編たちは、すべてを貫く骨格によって短くも壮大な物語に成長する。それが、「水から水まで」という作品のスゴさなんだと感じる。