タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

イベント参加:夜を灯す本のおはなし(tsugubooks✕夏葉社・島田潤一郎)〜ヘンリー・スコット・ホランド/高橋和枝・絵「さよならのあとで」

先日「夜を灯す本のおはなし」というイベントに参加してきた。会場は、国分寺にある胡桃堂喫茶店。会場には、近隣の方々ばかりでなく神奈川や山梨から参加した方もあったそうだ。

kurumido2017.jp

「夜を灯す本のおはなし」は、会社勤めをしながら本を届ける活動をしているtsugubooksさんが主催するイベント。第1回(11月26日(日)開催)が私も参加した胡桃堂喫茶店で、ゲストに夏葉社の島田潤一郎さん迎えたもの。第2回(11月28日(火)開催)は荻窪Titleで、ゲストに作家の頭木弘樹さんを迎えたもの。第3回(12月13日(水)開催)は田原町Readin’Writin’で、ゲストにノンフィクション作家の川内有緒さんを迎えたもの。

 

全3回のイベントの基礎となるテーマは、『大切なモノを失った夜を灯す』である。やや抽象的な表現だが、主催のtsugubooksさんのホームページにはこうある。

大切な人を亡くす、
病気でカラダの一部を失くす、
震災で“昨日と同じ今日”をなくす...

生きていると、悲しみに暮れる、夜がくることがあります。

〈夜を灯す本のおはなし〉は、
ゲストの方々の、それぞれの夜と「本」との関わり方を聴きながら、
夜について、ちょっと考えてみるイベントです。

 

www.tsugubooks.com

私が今回、第1回のイベントに参加しようと思ったのは、このイベントで取り上げられる本が「はじめての海外文学vol.3」に推薦されているヘンリー・スコット・ホランド「さよならのあとで」であり、イベントのゲストがこの本を出版している夏葉社の島田さんだったからだ。

「さよならのあとで」は、はじめての海外文学vol.3の推薦本の中では、少し異色の作品だと思う。

「さよならのあとで」は、亡くなった人を悼み、そして残された私たちが死者を忘れずに生きるための想いが込められた詩篇である。作者は、19世紀後半から20世紀初頭に生きたイギリスの神学者ヘンリー・スコット・ホランド。原詩にはタイトルはない。

死はなんでもないものです。(Death is nothing at all.)と、詩篇ははじまる。

死者は姿を消したけれど、それはたいしたことじゃないんだよと、詩篇は私たちに言う。

ただ悲しみにくれてばかりいないで、いままでのように話しかけてみてと、詩篇は私たちに言う。

いままでがそうであったように、これからも親しく名前を呼んでと、詩篇は私たちに言う。

短い詩篇の中には、ひとつひとつに私たちの心に染み入ってくる想いがある。それは、けっして押しつけがましくはなく、呼吸をするように自然に胸の内に入ってくる。そして、気持ちをすーっと落ち着かせてくれる。

この本は、夏葉社の島田さんが大好きだった従兄の突然の死をきっかけにして作られた。従兄を失った悲しみに暮れるなかで、この詩篇と出会い、この詩篇を本にすることで、従兄の死を受け止め、出来上がった本を、息子を亡くしたおじさんとおばさんに渡すことで思いを伝えたいと思った。そして、この本を作るために、島田さんは夏葉社を立ち上げた。その経緯は、島田さんの著書「あしたから出版社」に記されている。

イベント「夜を灯す本のおはなし」の中で、島田さんが体験した従兄との別れと、「さよならのあとで」に出会い一冊の本として作りあげるまでの話をきいた。島田さんが話した中で、強く印象に残ったことがある。

「長く生きたから良い人生だったとか、若くして亡くなったから残念だったとか、本当にそうなのかと思う。従兄は若くして亡くなったけど、だからといってそれまでの人生が不幸だったわけではない。若くして亡くなった友人や後輩もそうだ。それまでの人生を彼らが一生懸命に生きたならそれでいいのではないか」

一言一句このとおりの発言ではないが、おおよその趣旨は伝わると思う。

島田さんは、「さよならのあとで」を出版するきっかけとなった従兄の死の他にも学生時代の先輩や後輩を若くして亡くした経験がある。若くして亡くなった人があると、故人をよく知らない多くの人が「まだ若いのに残念だ」や「悔しいだろう」と語り合う。でも、それは違うのではないかと島田さんは感じた。故人がこれまで生きてきた軌跡をよく知っているから、彼らが一生懸命生きてきたことを知っているから、感じられることがある。

「さよならのあとで」は、まさに島田さんが話したことに通じていると思う。死は確かに哀しいことだ。だけど、ただ不幸として受け止めるのではなく、ただ姿が消えただけで日常はいままでと同じく進んでいくのだと受け入れることが、残された人の努めなのだ。

およそ1時間半のイベントは、心にグッとくる話ばかりで、これまで参加してきたイベントとは違う素敵な内容だった。グリーフケアという大切な人を失った悲しみに向き合い少しずつ日常を取り戻していくことを支援する活動があることも知った。

島田さんの話を伺ってから、「さよならのあとで」を読み返してみた。ひとつひとつの言葉が胸の奥に沁み入ってくる感覚は、きっと夜を灯す光なのだろうと改めて感じた。