タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

フランチェスカ・リア・ブロック/金原瑞人・田中亜希子訳「ひかりのあめ」(主婦の友社)-#やまねこ20周年 ゆっくりと漂うように描かれるレックスとマリーナの関係。それは許されない禁断の関係。

yamaneko20.jimdo.com

イベントは、翻訳家の金原瑞人さんを中心にやまねこメンバーの宮坂宏美さんと田中亜希子さんが、金原さんとおふたりの関係や〈やまねこ翻訳クラブ〉発足のときに金原さんにお世話になったこと。また、最近では金原さんのホームページの運営をおふたりが担っていることなど、イベントタイトルの通り「意外な関係」がわかる楽しいものだった。その中で、金原さん、宮坂さん、田中さんがそれぞれに翻訳したり、共同(金原さん+宮坂さん、金原さん+田中さん)で翻訳した作品を紹介してくれた中にあった1冊が本書である。

フランチェスカ・リア・ブロック「ひかりのあめ」は、金原さんと田中さんの共訳書。おふたりともが熱愛する作品である。

 

この作品のストーリーをうまく説明できる自信は、私にはない。基本ストーリーとしては、レックスとマリーナという兄妹の関係性を軸に、兄妹と周囲の人々との関係性を描いていく物語だ。レックスとマリーナは、兄妹であること以上に互いを愛し慕いあう関係だ。それは、ただ『兄弟愛』という言葉では言い尽くせない、深く強い愛情によって結びついている。だけど、ふたりにはどこか憂いを感じさせる。不幸といってしまっていいのかもしれない。禁断の関係と書いてしまうと近親相姦的なエロティシズムを印象づけてしまうかもしれないのだが、何か退廃的な空気感すら感じさせる。そして、それはレックスの突然の死によってマリーナの内から溢れ出す。

今回初めてフランチェスカ・リア・ブロックという作家の作品を読んだ。何より強く感じたのは、その文章の美しさだ。もちろん、それは翻訳が素晴らしいということになる。訳者あとがきにも書かれているが、小説であるが詩的な印象を受ける文章で、読み心地が良い。また、エピソードが短くまとめられていてテンポの良さもある。ただ、その分翻訳作業はたいへんだっただろうと想像できる。

レックスはなぜ死んだのか。彼を失って絶望に突き落とされたマリーナは、その真相を探ろうとする。そして、ある重大な真実を知ることになる。その真実が私たちの目に明らかにされたとき、この物語全体を覆い尽くしていた退廃的なイメージの理由も見えてくる。ところどころに散りばめられた伏線の数々が頭の中でスーッとクリアに見えてくる。

なるほど、金原さんや田中さんが本書、そして著者のフランチェスカ・リア・ブロックを熱愛する理由はここにあるのだなと感じた。

残念なことに、フランチェスカ・リア・ブロックの作品は、本書も含めてほぼ絶版となっていて入手が難しくなっている。私も、本書は図書館で借りて読んだ。唯一書店で購入できそうなリア・ブロック作品は、ちくま文庫で刊行されている「“少女神”第9号」だけのようだが、これも店頭在庫限りで版元品切れとのこと。今回読んでみて、すごく素敵な作品だと知ったので、なんとか復刊されないかと思っている。

【お知らせ】

11月末まで、書評コミュニティサイト「本が好き!」では、祝 #やまねこ20周年記念読書会と題して、〈やまねこ翻訳クラブ〉メンバーの訳書を読んでいこうというオンライン読書会を開催中です。やまねこメンバーのあの人やこの人も参加してくれていますので、ぜひアクセスしてみてください!

祝 #やまねこ20周年 記念読書会 【本が好き!】