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エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「望楼館追想」(文藝春秋)-「堆塵館」でその魅力にはまった作家のデビュー作。この物語には様々な《愛》が描かれていると感じた

望楼館追想

望楼館追想

 
望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)

 

 

エドワード・ケアリーという作家のすごさを知ったのは、「アイアマンガー3部作」の第1作「堆塵館」だった。

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ゴミの山の中に建つ「堆塵館」とよばれる屋敷を舞台にした物語は、発想の奇抜さも、ストーリー展開の巧みさも、キャラクターの造形も、すべてが魅力的で、読んでいて時間を忘れさせてくれる作品だった。その終わり方も衝撃的で「堆塵館」を読んだすべての人が「ここで終わるのか!」と驚愕し、第2作となる「穢れの町」の刊行を待ち焦がれることになった。まさか「穢れの町」のラストで同じ驚愕を味わうことになるとは知る由もなく...

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「堆塵館」を読み終わり「穢れの町」が刊行されるまでの間、ケアリー不足を補うために手にしたのは「アルヴァとイルヴァ」で、この作品も不思議で魅力的な作品だった。

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そして今回、「穢れの町」を読み終わり、3部作の完結編となる「肺都」が刊行されるまでのケアリー不足を補うために手にしたのは、ケアリーのデビュー作である「望楼館追想」である。

〈望楼館〉と呼ばれる薄汚れた5階建てのマンションを舞台に《ぼく》が語る物語は、幻想的でもあり、現実的でもある。容易に掴めそうに見えるのに、いつの間にかスルッと手の中からこぼれてしまっているような、だから、この物語の世界を見失わないようにしなければと、気づけば〈望楼館〉に自分が取り込まれてしまっているような作品だ。

語り部である《ぼく》は、常に白い手袋をつけ、下唇が腫れている。いろいろな品物をコレクションしている。長い時間身動きせずにいられる特技をもっていて、その特技で日々の稼ぎを得ている。

《ぼく》が暮らしているのが〈望楼館〉で、そこには《ぼく》を含めて7人の住人が暮らしている。《ぼく》と《ぼく》の両親、ピーター・バッグ、クレア・ヒッグ、犬女トウェンディ、そして門番。彼らは、〈望楼館〉の中の世界で生きている。〈望楼館〉の世界に閉じこもることで世間から自らを隔離している。自らを隔離することが彼らにとっての安穏をもたらしている。

その安穏を脅かす存在が、18号室に入居する新しい住人だ。《ぼく》はピーター・バッグとともに、新しい住人を〈望楼館〉から排除すべく行動するが、〈望楼館〉の住人たちは次々と18号室の住人アンナ・タップに心を惹かれていく。そして、いつしか《ぼく》もアンナという存在を意識するようになっていく。

「望楼館追想」を読み進めながら感じていたのは、この作品が《愛》を描いているのだということだった。最初は敵視していたアンナに対する《ぼく》の心情の変化は、かなりストレートに近い形で恋愛を描いていると思う。〈望楼館〉という舞台設定と《ぼく》をはじめとするキャラクターたちの特異性があるので、一般的なラブストーリーと同列にはならないと思うが、物語の全編を通じて《ぼく》がアンナに対する態度は、好きなのに素直になれない思春期の少年の恋心を描いている。ただ、《ぼく》は思春期の少年ではなく、37歳の中年男なのだが。

《愛》を描くということでいえば、物質愛とも言うべき《ぼく》のコレクションも「望楼館追想」に描かれる《愛》の物語だと思うし、何より〈望楼館〉という存在こそが《愛》の中核にあるのだと思うのである。かつては〈偽涙館〉と呼ばれていた〈望楼館〉は、《ぼく》の両親にとっての《愛》の場所であり、昔、そして今この場所に住まう人々を包み込む《愛》の場所である。〈望楼館〉は、ただ無機質な建物として存在しているにすぎないのに、強く強く《愛》の存在を感じさせる。それが、私が「望楼館追想」を読んで感じたことなのだ。

もうひとつ、「望楼館追想」を読んで感じたのは、この作品が「アイアマンガー3部作」へと繋がる作家エドワード・ケアリーの原点なのだということだった。「堆塵館」、「穢れの町」を読んでから「望楼館追想」を読んだから、そう感じたのかもしれない。でも、きっと私が感じたことは、ケアリーの作品を読んだ人なら共感してもらえると思うのだ。

さあ、これで既刊のケアリー作品をすべて読んでしまった。次に読めるのは冬に刊行される「アイアマンガー3部作」の完結編「肺都」になる。なんと!まだ刊行予定の12月までは4ヶ月以上もあるではないか!それまでは、「堆塵館」、「穢れの町」を読み返しながら待ち焦がれるとしよう。

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

 
穢れの町 <アイアマンガー三部作>

穢れの町 <アイアマンガー三部作>

 
堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

 
堆塵館 <アイアマンガー三部作>

堆塵館 <アイアマンガー三部作>

 
アルヴァとイルヴァ

アルヴァとイルヴァ