ガタガタ書評ブログ

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西崎憲他「ヒドゥン・オーサーズ」(惑星と口笛ブックス)-“Hidden”(隠れた=まだ見ぬ)作家たち。新しい才能の発見が楽しい作品集

ヒドゥン・オーサーズ Hidden Authors (惑星と口笛ブックス)

ヒドゥン・オーサーズ Hidden Authors (惑星と口笛ブックス)

 

作家であり、翻訳家であり、ミュージシャンであり、日本翻訳大賞の発起人かつ選考委員であり、文学ムック「たべるのがおそい」の編集長であり、と多種多彩な活動をしている西崎憲さんが、また新しいプロジェクトとして、電子書籍レーベル《惑星と口笛ブックス》をスタートさせた。

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《惑星と口笛ブックス》の第1回配本(電子書籍だから配信が正しいかも)が、本書「ヒドゥン・オーサーズ」である。

 

「ヒドゥン・オーサーズ」には、19名の作家たちの小説、短歌、俳句など多彩な作品が収録されている。すでに名前を知られている作家もいるが、多くはまだ見ぬ無名の作家たちだ。

■収録作品一覧(掲載順)
 「ごめんね、校舎」 大前粟生 (小説)
 「面白いテレビ」 照子 (俳句)
 「どうぶつにかがみみせてわらう」 みみやさきちがこ (小説)
 「二十一世紀の作者不明」 大滝瓶太 (小説)
 「マジのきらめき」 斎藤見咲子 (短歌)
 「月光庭園」 大原鮎美 (詩)
 「夜はともだちビスケット」 野村日魚子 (短歌)
 「お昼時、睡眠薬」 ノリ・ケンゾウ (小説)
 「素足ですし」 小川楓子 (俳句)
 「カーテン」 若草のみち (短歌)
 「聖戦譜」 伴名練 (小説)
 「『無伴奏』抄」 岡田幸生 (俳句)
 「つむじ圧」 杉山モナミ (短歌)
 「引力」 相川英輔 (小説)
 「平家物語」 谷雄介 (俳句)
 「ランナップ」 谷川由里子 (短歌)
 「スターマン」 西崎憲 (小説)
 「芋虫・病室・空気猿」 深沢レナ (小説)
 「人喰い身の上相談」 深堀骨 (小説)

収録ラインナップを見ても、おそらくほとんどの作家の名前を知らないだろう。過去に著作があるのは、レーベル主宰の西崎さんと早川書房から「アマチャ・ズルチャ」を刊行している深堀骨さんなど数名程度でしかなく、その他多くはネットや同人誌などで作品を発表してきた作家なのだ。まさに『隠れていた作家たち』なのである。

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 

商業ベースで考えてしまうと、この作品集を普通の出版社が紙媒体で刊行するのは難しいだろう。そういう意味では、電子書籍という新しい媒体だからこそ実現できた試みだと思うし、新しい媒体に着目してレベールを始動した西崎さんの行動力の賜物だと思う。

ただし、いくら自由な媒体であったとしても、1冊700円という値段で販売されているのだから、読者としてはそのコストに見合った作品のパフォーマンスを期待してしまう。まさに《コスパ》だ。今回、小説、短歌など19作品が収録されているわけだが、すべての作品が無条件に面白いとは感じられなかった。というのも、特に小説作品について感じたのだが、どうも似た傾向似た作風の作品が並んでいる印象がしてしまったのだ。

冒頭、大前粟生「ごめんね、校舎」から読み始めたときは、大前粟生という作家に対する期待と安心もあって、滑り出しは良かった。みみやさきちがこ、大滝瓶太と続く小説たちは、どれも大前作品とは違っていて面白かった。ところが、ノリ・ケンゾウ「お昼時、睡眠薬」でちょっと「あれ?」と感じてしまった。「なんか読んだことあるぞ」と感じてしまった。もちろん、作品の内容は他の作品とは違うし、テイストも全然違う。それなのに、読んでいて感じる雰囲気が似ているような印象を受けてしまったのだ。

考えるに、作品としての内容や質は全然違っていても、作品が醸し出すイメージであったり、文章の構成や傾向が近しいところがあって、その印象の蓄積が若干の違和感に繋がったのかもしれない。また、本書の場合、他のアンソロジーと違って作品テーマが設定されているわけではなく、それぞれがそれぞれに自由な作品が集まっているので、読み手としては少し方向性が見定めにくいところもあると思うので、そうしたいろいろな条件があって感じたところもあったように思う。やはり、こういうアンソロジーはひとつひとつの作品を個別にゆっくり読むのがいいのだろう。

《惑星と口笛ブックス》の第1回配本は、本書の他に大前粟生さんの初作品集「のけものどもの」も刊行されている。そちらは、大前粟生という個人的に期待値の高い作家の作品がまとめて読めるので大変楽しみにしている。大前さんの他にも、本書に収録されている才能たちの中から、単独の作品集や長編が出版される作家が現れるだろう。私が気になったのは、

「二十一世紀の作者不明」の大滝瓶太さん
「聖戦譜」の伴名練さん

の二人。お二人ともネット上などですでに作品を発表されているのだろうが、大前さんのようにまとまった作品集として読んでみたいと思う。《惑星と口笛ブックス》レーベルからの出版に期待している。