ガタガタ書評ブログ

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ニコルソン・ベイカー/岸本佐知子訳「もしもし」(白水社)-男と女の会話のみで構成されるストーリー。洒脱な表現で描き出される変態同士の電話越しのアヴァンチュール

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

前回レビューした「ノリーのおわらない物語」が、私にとって《初ニコルソン・ベイカー》だった。9才の少女を主人公にしたほのぼのした雰囲気の物語。ただ、あの作品はニコルソン・ベイカーとしては異色だったらしい。

s-taka130922.hatenablog.com

 

私がニコルソン・ベイカー読みの2本めとして選んだのは、本書「もしもし」だ。ニコルソン・ベイカーの4作目の作品であり、この作品の次に発表された第5作が「ノリーのおわらない物語」である。

 

「もしもし」は長編小説なのだが、その最初から最後までふたりの男女の会話のみで構成されている。アメリカの西側に住む男性ジムと東側に住む女性アビィは、アダルト・パーティー・ラインに接続して電話越しに話をしている。会話の内容は、ズバリ、テレホン・セックスである。最初のうちは、お互いに相手の性的嗜好を探りつつ、おとなしめの会話(といっても内容はエロ話)を交わしているのだが、時間の経過とともに内容は過激な方向へと向かっていく。

ジムもアヴィも紛れもなく“変態”である。どちらかといえば、ジムの方が変態レベルが高い。彼は、古本店で読み古しのロマンス小説を手にして想像する。この本を読んだ女性をイメージする。女性の指が艶かしくページをめくるところを想像し、小説に描かれる官能的な文章を読みふけるところを想像する。それだけで興奮してしまう。

アヴィは、シャワーの水滴がもたらす快感を語る。大学の寮のシャワー室にある高い位置のシャワーから溢れ、身体を伝い落ちる水滴がもたらしてくれる快感を語る。海で泳いだあとに熱いシャワーを浴びたことで冷えた水着に流れ込む熱い湯の快感を語る。

ふたりの会話は終始一貫してエロい。そもそも、ふたりともそういう会話を楽しむことと、その会話の中で自らに快感を得ることを目的としているのだから当然だろう。となると、この小説はいわゆる「ポルノ小説」なのかというと、そうではない。ニコルソン・ベイカーの表現の洒脱さと、その洒脱な文章の雰囲気を壊さない岸本佐知子さんの翻訳の妙が、あからさまなポルノ描写ではないオシャレさを作り出しているからだ。

本書がアメリカで刊行されたのは1992年である。「ノリーのおわらない物語」の訳者あとがきによれば、本書と著者の知名度を一気に上昇させたのは、かの研修生モニカ・ルインスキーがビル・クリントン大統領に本書をプレゼントしたことが発覚してからだ。この件で、ニコルソン・ベイカーは「あのテレホン・セックスの本を書いた人」と認識されるようになったとか。さすがに25年も前のことなので、今はそういう認識は消えていると思うが。

それにしても、男女のテレホン・セックスの会話だけで1本の長編小説に仕立て上げてしまうニコルソン・ベイカーのすごさには素直に驚いた。本書の訳者あとがきには、ニコルソン・ベイカーのデビュー作である「中二階」について説明があるが、エスカレーターで中二階にあるオフィスに戻る間に主人公が頭の中で考える様々な想像や妄想だけでできあがっているという。いったいどんな小説なのだろう。すごく気になる。

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中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)