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【書評】ジャスパー・フォード/田村源二訳「文学刑事サーズデイ・ネクスト1~ジェイン・エアを探せ!」(ソニー・マガジンズ)-名作文学の世界を守れ!誘拐されたジェインを文学刑事サーズデイ・ネクストは救い出すことができるのか!?

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文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ! (ヴィレッジブックス)

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ! (ヴィレッジブックス)

 

『本の世界に入ることができたら』 と、本好きなら一度は考えたことがあるかもしれない。空想の中で、作品の世界に入って、登場人物と同じ空間で、同じ空気を感じたいと、本を読みながら願ったことはないだろうか。

ジャスパー・フォード文学刑事サーズデイ・ネクスト1~ジェイン・エアを探せ!」は、文学の世界で起きる事件を《文の門》という特殊装置で文学世界に入り込んで解決する“文学刑事”の女刑事サーズデイ・ネクストを主人公とするミステリーシリーズの第1作である。このシリーズ、第3作「文学刑事サーズデイ・ネクスト3~だれがゴドーを殺したの?(上下巻)」まで翻訳されているが(第2作は「文学刑事サーズデイ・ネクスト2~さらば、大鴉」)、3作品とも現在版元絶賛品切れ中で入手不可となっている。第3作については、Amazonマーケットプレイスでとんでもない高値がついていたりする(興味がある方は検索してみましょう)。

 

文学刑事サーズデイ・ネクスト」シリーズの舞台は、1980年代のイギリスである。そこは、我々の知っているイギリスとは違う。クリミア戦争が130年にわたって継続中だったり、ウェールズ地方が独立国家になっていたりするし、一時はドイツに占領されていたこともあるという設定の、現実とはまったく違う世界なのである。

主人公のサーズデイは、『スペックオプス(SO)』と呼ばれる特別捜査機関で、彼女はその中のSO-27というセクションに所属している。SO-27は『文学局 』であり、文学作品の保護を活動の中心としている。ちなみに、SOのセクションはSO-1からSO-30まで存在していて、番号の若い部局に所属しているほどエリートとされてる。サーズデイの悩みの種は父親の存在だ。彼女の父は、元は時間警備隊(クロノガード)に所属していた大佐なのだが、自分の意志で時空を飛び越える能力を身に着け、現在はお尋ね者の逃亡犯となって時空間を逃げ回っている。

普段は、さえない事件ばかりを扱っているサーズデイだが、ある日、アシュロン・ヘイディーズという悪党の事件を担当する中で、アシュロンの逮捕に失敗し仲間を死なせてしまう。自身も負傷したサーズデイは、生まれ故郷のスウェンドンのSO-27に異動となり、そこで文学刑事として働き始める。逮捕を逃れたアシュロンは、サーズデイの伯父が発明した文学作品の中に入ることのできるマシン《文の門》を使って、有名作品の重要登場人物を誘拐して身代金をせしめようと画策する。ターゲットとなった作品は「ジェイン・エア」だった。アシュロンは、「ジェイン・エア」の直筆原稿を盗み出し、《文の門》を使って作品世界に入り込むと、ジェインを誘拐してしまう。サーズデイは、「ジェイン・エア」の作品世界に入り込み、作中人物たちの協力を受けながらアシュロンと対峙することになる。果たして、サーズデイは無事にジェインを救い出して「ジェイン・エア」の作品世界を守ることができるのだろうか!?

物語は、非常にテンポよく書かれていて、流れに乗ればサクサクと読むことができる。文学の世界に入って事件を解決するという設定が本好きな読者を惹きつけることは当然ながら、ただ入り込むだけではなく、作中人物たちと協力して事件の解決にあたったり、ときにはともに闘ったりするというところまで設定された世界観がおもしろい。英米文学に対するオタクぶりも楽しませる要素だろう。本作の場合は、元ネタとなっている「ジェイン・エア」の内容を知っているとより一層楽しめるに違いない。

しかし、先述したように本書を始めとするシリーズ翻訳既刊本は、現在すべて品切れで新刊書店では入手できない。古書店図書館で探すしかないだろう。

さらに残念なのは、翻訳は第3作までしか刊行されていないが、本国イギリスでは現在までに第7作まで刊行されているというのだ。ということを、2017年1月の「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の「【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!?」の記事(第81回記事(執筆者:三角和代))で知った。

d.hatena.ne.jp

まったく、なんということだ! こんなにおもしろいシリーズが既刊本は品切れで第4作以降は翻訳もされていないなんて! 本当にもったいない。あ~、新しい翻訳が読みたい。それがムリでも、せめて既刊3作品は電子化してもらえないだろうか。う~ん、英語苦手だけど原書(Kindle版有)で入手しちゃおうかと、ちょっとマジで思案中。

 

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈2〉さらば、大鴉

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈2〉さらば、大鴉

 
文学刑事サーズデイ・ネクスト〈3〉だれがゴドーを殺したの?〈上〉

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈3〉だれがゴドーを殺したの?〈上〉

  • 作者: ジャスパーフォード,Jasper Fforde,田村源二
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本
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文学刑事サーズデイ・ネクスト〈3〉だれがゴドーを殺したの?〈下〉

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