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【書評】ブライアン・エヴンソン/柴田元幸訳「ウインドアイ」(新潮社)-読者を現実とは違う世界に連れて行ってくれるような短編の数々

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

 

 

短編集を読むときに、最初から順番に読む場合と順番は関係なく拾い読みする場合がある。どういう場合にどっちという決まりがあるわけではないけれど、まあそのときの気分ということにしておきます。

ブライアン・エヴンソン「ウインドアイ」は、同じ新潮クレスト・ブックスから刊行された「遁走状態」に続く2冊目の短編集で、短編25篇が収録されている。

 

表題作の「ウインドアイ」は、少年の頃に妹と遊ぶ中で感じた漠とした不安、妹がじっとみつめるもの、祖母の言う『ウィンドアイ』、そして長い年月が過ぎて独り感じること、そうした記憶の曖昧な断片をつなぎ合わせた、どこかボンヤリとして、なのに存在を強く意識させるような物語があるし、「スレイデン・スーツ」に描かれる難破した船員たちの話はとても寓話的だ。

エヴンソンの小説は、安直な言い方をすると『わかりづらい』。いったい何が書かれているのだろう。何が語られるのだろう。話の結末はどうなっているのだろう。作品のオチは? 何か得るものがあるのか? などなど、読んでいる間ずっとそんなことを考えてしまう。でも、行きつ戻りつしながら読み進めていくと、それこそがブライアン・エヴンソンという作家の作品を読むということなのだと気づく。気づくと、わからなさ加減がむしろ楽しくなってくる。基本的な部分は認識しつつも、勝手に頭のなかで自分なりの理解に読み替えてしまったり。そんな適当な読み方さえも、エヴンソンの作品なら広く受け止めてくれるような気がする。

そういう意味で、ブライアン・エヴンソンの短編集は、収録されている順番に関係なく気になるタイトルの作品だったり、一度読んで気になったりよくわからなかった作品を、気分の赴くままに読んでいくタイプの小説だと思う。

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス)

 
居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)