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【書評】江戸川乱歩「D坂の殺人事件」(青空文庫)−名探偵明智小五郎のデビュー作。本格ミステリでありながら事件の真相には乱歩らしさがある

《お知らせ》書評サイト「本が好き!」で、「古今東西、名探偵を読もう!」という掲示板企画を立ち上げています。名探偵が好きなみなさんのご参加お待ちしています!

 

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D坂の殺人事件
 

「古今東西、名探偵を読もう!」企画。これまでは、シャーロック・ホームズ・シリーズの長編を2作品(「緋色の研究」、「四人の署名」)読んできたが、ここで日本の名探偵に目を向けてみることにしました。

江戸川乱歩「D坂の殺人事件」です。登場するのは、もちろん明智小五郎であります。

なお、以下レビューには本作品の結末についても書いていますので、「D坂の殺人事件」を未読という方はご注意ください。

 

ところで、明智小五郎を探偵役とする一連の作品は、その多くが映画やテレビドラマなどで映像化されていて、明智を演じた俳優も大勢いますが、印象に残っているのは天知茂さんが演じた明智小五郎ですね(個人の感想です)。《明智小五郎天知茂》のイメージが強すぎて、明智小五郎というと苦みばしったニヒルな二枚目で、ビシっとスーツを着こなしている都会的な人物というイメージが浮かんでしまいます。

しかし、「D坂の殺人事件」に登場する明智小五郎は、そんなイメージとはかけ離れています。

まず、カフェに現れたときの様子はこんな感じです。

其時、先程一寸名前の出た明智小五郎が、いつもの荒い棒縞の浴衣を着て、変に肩を振る歩き方で、窓の外を通りかかった。

本書の語り手である『私』によれば、この変な歩き方を含め、顔色から声色まで講釈師の神田伯龍(五代目)にそっくりと記し、さらに明智についてこう記していきます。

所謂好男子ではないが、どことなく愛嬌のある、そして最も天才的な顔

 

髪の毛がもっと長く延びていて、モジャモジャともつれ合っている。そして、彼は人と話している間にもよく、指で、そのモジャモジャになっている髪の毛を、更らにモジャモジャにする為の様に引掻廻すのが癖だ。服装などは一向構わぬ方らしく、いつも木綿の着物に、よれよれの兵児帯を締めている。

...全然《天知茂》じゃないですね(笑)

というか、木綿の着物によれよれの兵児帯を締めて長く延びたモジャモジャの髪の毛を引っ掻き回している《天知茂って、想像するとなかなかなビジュアルです。

さて、明智小五郎のビジュアルについてはこのくらいにして、「D坂の殺人事件」の話をしましょう。

「D坂の殺人事件」は、大正14(1924)年に発表された作品で、明智小五郎の初登場作品になります。日本風の長屋にある古本屋で発生した殺人事件の謎を明智小五郎が解き明かす短編ミステリです。

「D坂の殺人事件」が特長的なのは、日本の建築物であることを逆手に取り、衆人環視の中で行われた密室殺人を扱っていることと、それとも関連する人間の心理的な誤解や思い込みを利用したトリックが描かれていること、そして、「芋虫」や「人間椅子」などのある意味で耽美ともとれる江戸川乱歩の作品趣味が事件の真相に大きく関係していることだろうと思います。

ネタバレになりますが、この事件の犯人は、古本屋と同じ長屋にある蕎麦屋旭屋の主人です。その真相について、明智小五郎はこう説明します。

旭屋の主人というのは、サード卿の流れをくんだ、ひどい惨虐色情者で、何という運命のいたずらでしょう、一軒置いて隣に、女のマゾッホを発見したのです。古本屋の細君は彼に劣らず被虐色情者だったのです。

つまり、この事件は、かなり激しいSである蕎麦屋の主人と、これまたかなりのMである古本屋のおかみさんのSM趣味が合致してプレイに及んだ結果、蕎麦屋の主人が古本屋のおかみさんを殺してしまうに至ったということなのです。

ポプラ社偕成社から出ていた「怪人二十面相シリーズ」などの子ども向け作品を学校の図書館で借りて読んだのが、読書にはまるきっかけでした。という人は多いことでしょう。そんな無垢な小学生が大きくなって、ちょっと大人の江戸川乱歩作品を読もうとこの作品を読んだとき、この結末はかなりのトラウマになりそうです。まあ、いきなり「芋虫」とか読んじゃうよりはマシかもしれませんけどね(笑)

 

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