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【書評】アーサー・コナン・ドイル/阿部知二訳「四人の署名」(東京創元社)−ワトスン博士がモースタン嬢にひとめ惚れして事件解決後に晴れて夫婦となるまでの物語(事件もあるよ!)

 

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ホームズ初登場作品「緋色の研究」刊行から130周年を記念して、勝手にホームズ作品を読み返しています。まずは長編4作を順次読んでいこうということで、今回は「四人の署名」です。

 

ストーリーを簡単に説明しておきますね。

物語の冒頭、暇を持て余したホームズは、退屈しのぎにコカインで気持ちよくなったりしてます。さすがは変人です。そこへ現れたのが、うら若き依頼人メアリ・モースタン嬢です。正体不明の人物から6年にわたって真珠が送られていて、ついにその人物から面会を求める手紙が届いたとのこと。ホームズはさっそく調査に乗り出します。3人で約束の場所へ向かうと、サディアス・ショルトという男が待ち構えていて、彼の父ショルト少佐とメアリの父モースタン大尉とのインドの財宝に関する因縁を聞くことになります。サディアスと兄のバーソロミューは、メアリに真珠を送り、自分たちは父が屋敷に隠した財宝を探し続けていて、それが発見されたことを告げます。

しかし、話はそこで終わりません。ショルト家を訪れたホームズたちは、無残に毒殺されたバーソロミューの死体を発見することになります。事件が混迷を深めていくごとにいきいきしてくるホームズは、ベーカー街・イレギュラーズの浮浪児たちに指示して捜査を進め、事件の謎に迫っていくのです。

長編ではありますが、昨今の重厚長大な長編ミステリに比べれば短くて、展開もスピーディーです。全12章の構成。1章~11章が事件の発生から解決までのストーリー、12章が犯人による事件の真相の告白になっています。

今回、私はミステリ小説としての本作ではなく、ワトスン博士の恋模様を軸に読んでみました。

ご承知のとおり、今回の事件で依頼人となったメアリ・モースタン嬢は、その後のワトスン夫人です。ワトスン博士は、事件の依頼にやってきたメアリにひとめぼれして、事件に関わっている間ずっと、メアリとお近づきになりたいと思い焦がれていたのです。

例えば、メアリが事件の相談でベーカー街221Bを訪れたときの彼女に対する印象をワトスンはこう記述しています。

顔だちがととのっているわけでもなく、顔色が美しいわけでもないが、表情は愛らしく人好きのするところがあり、けだかく敏感そうな、青い大きな目をしている。私は、多くの国々、三つの大陸にわたって婦人を見てきたのであるが、優雅で繊細な天性がこれほどはっきりあらわれている顔というものを、知らない。
(2.事件の陳述)

この時点でワトスンくん、メアリ嬢に惚れちゃったようです。それは、この章のラスト、メアリがベーカー街221Bを出ていった後の記述にもあらわれています。

私の心は、さきほどの訪問者-その微笑、その声のゆたかな調子、その人生をおおう奇怪な秘密の上にはせていたのだ。父親の失踪したとき十七だったとすれば、いまは二十七のはずだ-若さがようやく気取りをなくし、経験からいささかのおちつきが出てくる、愛すべき年ごろである。

こうしてメアリに恋しちゃったワトスンは、ホームズと捜査を進めていく間もちょいちょいメアリのことを考えちゃったりします。ホームズがメアリについて辛辣なことをいえばムッとしちゃったりしますし、メアリが捜査の進展について賞賛のコメントをすれば、捜査の手柄はほとんどホームズの功績であるにもかかわらず、自分が褒められているような気がして満更でもないようです。いやいや、実に微笑ましい。

事件が解決した後、ワトスンはメアリに求婚し、彼女はそれを承諾します。結婚について報告されたホームズは、冷ややかにこう言います。

(略)恋愛というのは感情的なもので、すべて感情的なものは、ぼくがなにものにまして尊重するところの、狂いのない、冷厳な理性とは、相いれないのだ。ぼくならばだね、判断力を狂わせないために、ぜったい結婚すまいと思う

いやぁ、並の男のセリフだったら、仲間と思っていた独身の友人にまんまと先を越されちゃったことにショックを受けつつ強がって辛辣な皮肉をぶつけてくるイタイ野郎だなぁ、となりますが、そこはホームズです。本気度が違いますね。

ということで、「四人の署名」とは、ワトスン博士の恋愛物語を暖かく見守りながら、プロの独身男のパイオニアであるシャーロック・ホームズの伝説をあらためて確認する作品なのだというのは、今回の結論でした。(なんか違うww)

 

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