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【書評】「まだまだ知らない夢の本屋ガイド」(朝日出版社)−私たちの知らない本屋さんがそこにある。それは夢のような本屋さんかもしれない。

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド

 

出版不況と言われ続け、街から書店が姿を消していく中、個性的な店構え、独自の棚作り、さまざまなイベント企画など、その店ならではのコンセプトを売りにした書店がある。ヴィレッジヴァンガードB&Bといった書店が代表格だろうか。

いまや、書店には本が並んでいればいい、という考え方では商売は立ち行かなくなっている。だから、全国の書店は、個性的な店作りを進めて、お客様の興味を惹く努力を怠らない。われわれ書店を利用するユーザーとしては、「大変だな」と思うと同時に個性的な書店が増えることに興味津々だったりする。

 

「まだまだ知らない夢の本屋ガイド」には、そうした個性的な書店が紹介されている。まさに“夢の”本屋ガイドだ。

東京都豊島区に店を構える「月蝕書店」は、「死者のための選書」サービスを提供している。亡くなった読書家の霊前にその人が好きそうな本を見繕って提案するサービスだ。“好きだった”本ではなく“好きそうな”本というのがポイントだろう。

神戸にある「GOKUCHU BOOKS」は、刑務所に服役中の囚人に本を差し入れるサービスを提供している。店主の北島さんが子どもの頃、暴力団員の父親が服役していたときに母親が本を差し入れしていたことが、サービスを思いついたきっかけという。罪を犯して服役している囚人に希望する本を届けるサービスを批判的に捉える人もいるようだが、北島さんはこの仕事に誇りを持っている。

品揃えの特殊な書店もある。新宿にある「陽明書房」は「夢のような本屋というよりは、夢に出る本屋だ」と秋元店長が言うように、心霊専門の書籍を取り扱う本屋だ。開店時間は夜8時から深夜3時までというから本格的。常連客などから譲り受けた心霊写真やビデオなどを独自に編集して写真集やDVD化したプライベートブランドの商品も手がけていて、それもかなりの人気商品だという。

他にも、沖縄の離島で90歳になるオバアが営んでいる「島の本屋」や、松尾芭蕉奥の細道」の旅路を、芭蕉にならって俳句を嗜みながら巡る本屋列車「おくのほそ道号」、店が忍者屋敷になっているカフェ&ブックスの店「伊藤書店」などなど、その店独自のコンセプトでサービスを展開している個性的な書店があわせて22軒紹介されている。

「こんな本屋さん、ほんとうにあるの?」と疑いたくなるほど、紹介されているひとつひとつの店は独創的である。なんだか、執筆者の脳内で想像によって創造された理想の書店の羅列になっているのではないかと考えてしまう。それでいて、大真面目に書かれているから、「本当にあるのかも」と思いたくもなる。

紹介されている本屋が実在するとかしないとか、本書を読んでいるときは考えなくていいんじゃないかと思う。

紹介されている本屋が実在すると想定して、その店を自分が実際に訪れたときのことを想像しながら読んでみる。なんだか楽しくなる。現実に存在するリアル書店の没個性的な店構えと比較しつつ、個性的な棚から醸し出される店の雰囲気を想像して楽しむ。本書は、読者の想像力にまかせて書店を巡るためのガイドブックだ。

人間の想像力の豊かさと面白さを感じられると思う。