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【書評】ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」(東京創元社)-#はじめての海外文学 Vol.2ビギナー篇より。あるひとりの失踪した少女の行方と謎を地道に追いかける警察。1952年刊行の“警察小説”のパイオニア

ミステリー小説のジャンルのひとつに、“警察小説”がある。大尿的な作品としては、エド・マクベインの「87分署シリーズ」があるし、最近だとユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Qシリーズ」が人気になっている。日本国内に目を向けても、今野敏「隠蔽捜査シリーズ」があるし、小説ではないけれど、ひと昔前には「太陽にほえろ!」や「西部警察」のような“刑事ドラマ”が人気だった。

 

ヒラリー・ウォー「失踪当時の服装は」は、警察小説のパイオニアともいえる“警察捜査小説”である。

『一九五〇年三月三日 金曜日』と題する第1章から始まる物語は、マリリン・ローウェル・ミッチェルという18歳の少女が姿を消した日から始まる。彼女は、マサチューセッツ州ブリストル郡にあるパーカー・カレッジの1年生。その日、正午の歴史の授業に出席した彼女は、寮の部屋に戻り、気分がすぐれないからとルームメイトのペギーに告げた。そして、ペギーが昼食を終えて部屋に戻ったときローウェルの姿は消えていたのだった。当初は、外出しているだけと思われていた彼女の失踪は、時間の経過とともに深刻となり、警察の失踪人捜査に委ねられることになる。

地元ブリストル警察のフォード署長は当初、ローウェルの失踪事件は簡単に解決すると考えていた。ローウェルの父親であるミッチェル氏も、ローウェルをよく知る学友たちも否定したが、フォードはローウェルが男と関係を持ち、その結果望まない妊娠をしたため、秘かに堕胎する目的で失踪したと考えたのだ。

フォード署長の思惑を嘲笑うように、ローウェルの行方は杳としてしれないまま、警察の捜査は次第に行き詰まっていく。なにかの手がかり(もしかしたらローウェルの遺体)が沈んでいる可能性を考えて敢行した湖の水を抜いた捜索でも、めぼしい手がかりは見つからない。

物語は本当に地味だ。警察の捜査は、関係者への聞き込みやポイントとなりそうな場所の張り込み、ローウェルが寮の部屋に残した日記などの調査など、コツコツと地道に進められていく。警察の遅々として進まぬ捜査に対して、ミッチェル氏は、自ら私立探偵を雇い、ローウェルの失踪に関する情報の提供者への報償金を出すなどして、警察とは違うルートでの捜索を続けていく。

本書のタイトルになっている「失踪当時の服装は」は、ローウェルの失踪当時の服装と所持品が、彼女の行方を追う上での重要な手がかりとなることに由来する。物語のラスト、警察の地道な捜査によって失踪事件の真相が明らかになっていく最後の局面で、ローウェルの失踪時の服装と所持品の存在が事件解決の大きな役割を果たすことになるのだ。

「はじめての海外文学Vol.2ビギナー篇」で本書を推薦した英米文学翻訳家高橋知子さんの推薦の言葉には、

現代のような科学捜査がない時代、地道な捜査が続きます。一歩一歩真相に近づく過程や、捜査にあたる警察署長たちの人となりが魅力の一作です。

とあるが、まさにその通りの作品だった。

1950年代に書かれた作品で、しかも警察小説ということもあり、読み始める前は古めかしくまだるっこしいミステリーなのではないかと思うかもしれない。正直、私も読み始める前は、「途中で飽きちゃうじゃないか?」と思っていたのだけれど、実際に読んでみるとスルスルと読めて飽きることがなかった。ミステリーが苦手、警察小説が苦手、地味な小説が苦手という方にも試しに読んでみてほしいと思う。

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