全4巻にわたる長編もいよいよラストとなった。これまでに張り巡らされてきた伏線の数々がどのような形で回収されるのだろうか。
第3巻の後半でラスベガス時代の悪友ボリスの再会したテオは、自分が隠し持っていたはずの「ごしきひわ」をボリスが持ち出していたことを知り驚愕する。そして、ボリスが持ちかけた「ごしきひわ」を使った取引に巻き込まれることになり、ボリスとともにオランダ・アムステルダムに飛ぶことになる。
ここで、第1巻の冒頭の場面と話がつながることになる。第1巻の冒頭でテオは、血で汚れた格好でアムステルダムのホテルの一室にいる。この段階では、彼が何か重大な事態に関わっていることは想像ができる。しかし、それがどんなトラブルなのかは不明なままだった。その答えが、第4巻にして明かされることになるのだ。
ボリスとともにアムステルダムに飛んだテオは、取引の現場で事件に巻き込まれる。ボリスと別れてホテルに戻ったテオは、事件の恐怖に怯え、不安な日々を過ごすことになる。アメリカに帰ることできず、ボリスがどうしているかもわからない。ホテルにいても、表を歩いていても、誰かに狙われているのではないかという不安と彼は戦うことになる。
物語冒頭の場面の謎。「ごしきひわ」を巡る謎。第1巻から第3巻までに張り巡らされてきた伏線は第4巻にして鮮やかに回収される。モヤモヤとしていた気持ちがスーッと晴れるような感覚が気持ちいい。
「ゴールドフィンチ」は、テオことシオドア・テッカーの物語である。それは間違いない。と同時に、テオに関わるさまざまな人々の物語でもある。「ゴールドフィンチ」の登場人物たちは誰もが魅力的だ。爆破テロで母を亡くしたテオを受け入れてくれたバーバー家の人々との関係。骨董家具職人であるホービーは、大らかで優しくテオを見守る。ピッパという少女との出会いは、テオの淡い恋模様を描き出し、ラスベガスで暮らしているときに知り合った悪友ボリスは、テオにとっての心のよりどころでもある。こうした、脇を固める登場人物たちが魅力的だからこそ、テオという主人公の存在感が際立ってくるし、物語全体がグッとまとまってくるのだと思う。そうした登場人物の魅力と物語の魅力が、本書をピュリッツァー賞に導いたのかもしれない。
全4巻におよぶ大長編小説だけに、途中でダレて読むのがきつくなるんじゃないかと思っていたが、読み始めてみるとそういう気分になったことはなかった。むしろ、図書館で1冊ずつ読み終わるごとに借り出していたので、各巻を読む間隔が開いてしまったのがもどかしく、まとめて借りて一気に読むべきだったと、ちょっと反省している。まだ読んでいない方は、ぜひ年末年始の休暇に全4巻を一気読みしてみてほしいと思う。