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【書評】夏目漱石「夢十夜」−漱石が綴る10の夢物語。どのお話が好きかで性格診断とかできそう(笑)

夢十夜

夢十夜

 

こんな夢を見た。

この書き出しが印象深い夏目漱石の短編集が「夢十夜」です。久しぶりにKindle無料版で再読(再々読あるいはそれ以上かも)してみました。意外だったのは、10篇全部が「こんな夢を見た」で始まるものと思い込んでいたんですけどね、実際には、第一夜、第二夜、第三夜、第五夜の4篇だけで、その他6篇はそれぞれに異なる書き出しで始まっていたんですね。そんな思い込みも、やはりこの書き出しの印象が強く残っていたからでしょうか。

 

夢十夜」に描かれている10の夢物語は、どれも幻想的で、ときに薄らと背筋を凍らせるような恐怖を覚え、ときにニヤリとさせられるユーモアを交えたバラエティ豊かな作品です。第一夜から順番に読み進めてもいいし、お気に入りの作品を選んで読んでもいい。どういう読み方をしても楽しめると思います。

ひとつひとつの作品には、漱石の精神状態が強く反映されているように思えました。

夢十夜」は、1908年7月から8月にかけて朝日新聞紙上に連載されました。その前年(1907年)に漱石は、教職を辞して朝日新聞に入社し職業作家としての生活をスタートさせています。それまでの実績もあるから、職業作家として十分にやっていける自信もあったとは思うのですが、専業になるというのはやはり大きな決断だったに違いありません。そのことが原因なのかはわかりませんが、神経衰弱や胃病の症状が顕著になってくるのもこの頃からのようです。

そうした期待、希望と不安の入り交じる中で「夢十夜」が執筆されたのだとすれば、本書が漱石作品としてはやや異質な作品となっているのもわかるような気がするのです。ひとつひとつの作品のテイストが、死を強く意識していたり、ユーモラスでありながら不安定さを感じされる作品だったりするのは、やはり漱石の心身の好不調の波によって、作品のバランスが危うく揺れ動いているからではないかと思えるのです。

夢十夜」の10の短編が、それぞれに漱石の精神状態を表しているのだと見れば、読者である私たちがどの夢物語が好きか、どの夢物語に共感するかで、性格診断にも使えるのではないかという気がします。

第一夜に共感したあなたは、少し疲れているようです。

とか、

第八夜が好きなあなた、もっと積極的になりましょう。

みたいな(笑)

夢十夜」を読みながら、そんなことを考えてみたのですけれど、もしかしたらもうすでにどこかで「夏目漱石夢十夜』であなたの性格を診断しちゃいます」的なサービスが存在するかもしれませんね。

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