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【書評】横溝正史「獄門島」(角川書店)-“獄門島”という横溝正史のネーミングセンスに改めて感服でございます

獄門島」-実に強烈なインパクトのタイトルだと、改めて感じる。瀬戸内海に浮かぶ絶海の孤島という舞台設定と「獄門島」というネーミングの相乗効果が、本書のおどろおどろしい雰囲気を醸成しているのだと感じる。

 

横溝正史獄門島」は、名探偵金田一耕助シリーズの中でも評価の高い作品だ。過去2回アンケート集計された「東西ミステリーベスト100」では、1985年版の第1回と2012年版の第2回のいずれにおいても、国内ミステリーの第1位に選出されている。

東西ミステリーベスト100

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東西ミステリーベスト100 (文春文庫)

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 また、本作の映像化作品も過去に7作(映画2作、テレビドラマ5作)が製作されていて、今年(2016年)には長谷川博己金田一耕助役とした「獄門島」がNHS-BSで放送された。

www.nhk.or.jp

あまりにも有名な作品なので、本書を読んだことがない人や映像作品を観たことがない人でも、作品のストーリーはなんとなく知っているかもしれない。とりあえず、簡単に記しておく。

終戦から1年ほど経った昭和21年秋に事件は起きる。戦友であった鬼頭千万太の死を伝えるために、瀬戸内海に浮かぶ孤島“獄門島”に向かった金田一耕助は、そこで恐ろしい連続殺人事件に巻き込まれる。それは、千万太の3人の妹たち、雪枝、月代、花子がそれぞれ俳句に見立てて殺害されたのだ。

第1の犠牲者は花子。彼女は殺された後で梅の木に逆さにぶら下げられていた。見立て句は「鶯の身を逆に初音かな」
第2の犠牲者は雪枝。彼女は殺されたあとで吊鐘の中に押し込まれていた。見立て句は「むざんやな冑の下のきりぎりす」
第3の犠牲者は月代。彼女は本鬼頭の庭に建てられた祈祷所で首を絞められて殺された。見立て句は「一つ屋に遊女も寝たり萩と月」

実は、耕助が獄門島を訪れたのは、亡くなった鬼頭千万太の依頼であった。千万太は、自分が死んだあとで3人の妹たちが殺される可能性を懸念していた。その千万太の懸念したとおりに事件は起きてしまったのだ。耕助は、図らずも事件の真相を探ることになる。

終戦直後の日本、瀬戸内海に浮かぶ孤島、本家と分家という一族間での対立の構図、絶大な影響力を誇った亡き当主の存在感と影響力、精神を病んで座敷牢に幽閉されている父親、等々、作品の世界観を決定づけるような人物設定や舞台設定がなされていて、それが「獄門島」という作品の雰囲気を形成している。今回、十数年振りくらいに読み返してみたのだが、メインとなる殺人事件のトリックだけを見れば案外普通の作品という印象なのに、事件の周囲を飾り付ける先述したような設定の数々が醸し出す雰囲気があるために、作品全体としての魅力が強められている。

また、これまでに7回も映像化されているように、作品自体が実に映像的である。梅の木に逆さ吊りにされた死体のインパクトは、同じ横溝作品である「犬神家の一族」で犬神佐清の死体が湖に逆さまに沈められて両足がにょっきりと湖面から突き出しているシーンと並ぶ名場面だ。

今回、本書を久しぶりに読み返したのは、十数年振りにドラマ作品が放送されたからなのだが、ここまで書いてきたように原作となる本書があってこその映像作品なのだということが改めて確認できた。本書再読をきっかけに、そして映像化をきっかけにして、久しぶりに他の横溝作品も読み返してみようかという気分になっている。

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