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【書評】ハラルト・ギルバース「オーディンの末裔」(集英社)-「ゲルマニア」の続編。ドイツの敗色濃厚な中、夫殺しの嫌疑を駆けられた友人を救うためにオッペンハイマーは奔走する

ハラルト・ギルバースのデビュー作「ゲルマニア」を読んだのは1年少し前、2015年8月のことだ。ナチス政権下のドイツでユダヤ人の元刑事オッペンハイマーが、ナチス将校フォーグラー大尉の命令で残忍な連続猟奇殺人事件の捜査に挑むという作品で、ユダヤ人とナチス将校のコンビという組み合わせの奇抜さと作品としての面白さが相まった良作だった。

オーディンの末裔 (集英社文庫)

オーディンの末裔 (集英社文庫)

 

本書「オーディンの末裔」は、「ゲルマニア」の続編にあたる。舞台は前作同様ナチス政権下のドイツ。時代は前作からおよそ半年ほど進んで1945年初頭。戦争は、ソビエトの参戦もあってドイツの敗色が濃厚となっている。

 

オッペンハイマーは、敗色濃厚な状況でユダヤ人迫害がさらに強化される中、アーリア人である妻のリザとは離れ、自らはヘルマン・マイヤーと偽名を名乗って暮らしている。彼をサポートしているのは、友人の医師ヒルダだ。

ある日、彼らの前にヒルダの夫でナチ親衛隊に所属しているハウザーが現れる。彼は、ナチ親衛隊の医療機関から持ち出した大量のモルヒネを売り払い銀貨を手に入れる手伝いをオッペンハイマーに持ちかける。しかし、取引はうまくいかず、のみならずハウザーが持ち出したというモルヒネはほぼすべてが偽造品だったことが判明する。逃走したハウザーを捜索するオッペンハイマーたちは、ハウザーが首と両手を切断された状態で殺害されているのを発見する。そして、夫殺害の容疑者としてヒルダが逮捕されてしまう。反ナチスの活動を先頭になって繰り広げていたヒルダにとって、逮捕はすなわち死刑を意味する。ハウザー殺害の犯人がヒルダではないことを確信するオッペンハイマーや彼女の弁護士は、必死に彼女の無実を証明する事実を追い求める。

前作「ゲルアニア」は、ミステリー小説ではあるが、ユダヤ人刑事とナチス将校のコンビという登場人物設定の妙でストーリーを展開することで小説的な面白さを実現した作品であり、ミステリーとしてはやや弱い印象を受けた。2作目にあたる「オーディンの末裔」は、前作に比べるとミステリーの要素、アクションの要素が増えている。ミステリーマニアからすればまだまだ物足りないかもしれないが、私としては十分な読み応えがあった。

本作でオッペンハイマーが奔走するのは、彼の理解者であり友人であるヒルダが巻き込まれた殺人事件の真相解明だ。連合軍に攻め込まれ、ソヴィエトの侵攻によりナチス・ドイツの命運は風前の灯だ。首都ベルリンにも連日のように空襲が行われ、街は瓦礫の山と化している。追い詰められたナチスは、ヒトラーとナチ党に批判的な反対勢力への締め付けを強め、政治犯として逮捕された活動家は満足な裁判も受けられずに死刑とされる。ヒルダには、殺人犯という汚名だけでなく、政治犯としての理不尽な裁きが下される可能性があるのだ。

オッペンハイマーの捜査によって、ハウザーの背後にはある秘密結社の存在が影響していることがわかる。また。彼が手がけていたある凄惨な人体実験に関する文書の存在が、事件を巡る鍵となることもわかってくる。

ラストに向けて、残り50ページくらいの展開は、まさに“怒涛の展開”であり、その真相は意外な結末となっている。真相についてはネタバレになるので割愛する。

物語の結末は、あまりはっきりしない。このラストの設定は、読んだ人の間で賛否がわかれるのではないだろうか。時代的には、このような終わり方しか選択肢はなかったのかも、という印象で、さらなる続編を期待させる。事実、著者はすでに三作目を書き終えていて、ドイツでは来年(2017年)春に出版予定とのこと(翻訳ミステリー大賞シンジケート:訳者自身による新刊紹介より)。本国で来年ということは、翻訳は早くても来年の秋~冬、もしかすると再来年になるかもしれない。それまで首を長くして待とうと思う。

d.hatena.ne.jp

ゲルマニア (集英社文庫)

ゲルマニア (集英社文庫)

 

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