タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】竹村真奈/小西七重「食品サンプル百貨店」(廣済堂)-とことんリアル!日本が世界に誇る食品サンプルの世界はここまでスゴイ!

家族でデパートにお買い物に来た日曜日。お昼の時間帯となって向かうは最上階のレストランフロア。和洋中なんでも揃うレストランの入口には、様々な料理のサンプルがショーケースに並んでいる。

食品サンプル百貨店

食品サンプル百貨店

 

私の世代にとって、食品サンプルのある風景とはこういう記憶の中にあるのではないだろうか。もしくは、町の大衆食堂の店頭ショーケースで、すっかり埃をかぶり、色もあせてしまった時代を感じさせる中華そばやカツ丼、オムライスのサンプルかもしれない。

 

食品サンプルは、いまでは立派な日本の観光土産として、海外からの旅行客に評判となっているという。日本人の繊細さが生み出す、あまりにリアルな料理や食材の再現性は、まさに“クールジャパン”である。本書は、そんな食品サンプルを紹介する1冊だ。

日本における食品サンプルの歴史は1917年に始まる。なんと、100年にならんとする歴史があるのだ。最初は、料理教材用の模型としてスタートした食品サンプルが、はじめて現在のようなレストランのショーケースに置かれる料理のサンプルとして作られたのが1923年、日本橋にあった百貨店「白木屋」の食堂に食品サンプルが置かれたとのこと。さらに、現在のような精巧な食品サンプルの初めては、1932年に岩崎瀧三が作ったオムレツであった。このことをもって、岩崎瀧三は“食品サンプルの父”と呼ばれていて、彼が創立した「岩崎製作所」が今でも(社名は変わっているが)食品サンプルの代表的な会社として存続している。

本書には、実に様々な食品サンプルが掲載されている。パフェやアイスクリーム、クレープやケーキなどのスイーツやホットドックナポリタン、ピザやハンバーグなどの洋食、寿司、丼ものに焼き魚などの和食にラーメンやチャーハンといった中華料理も本当にリアルだ。中でも、卵かけごはんのリアルさには、思わず生唾を飲み込んでしまった。黄身の濃厚さだけでなく、白身の質感やごはんに染みた醤油の感じとか、写真でみただけなら本物との区別はつかない。おそらく、実物を見ても本物と区別ができないかもしれない。

今は、食品サンプルは業務用としてレストランや喫茶店の店頭ショーケースに並べられるだけではなく、ミニチュア化した上でイヤリングやピアス、ブローチなどのアクセサリーとしてショップで販売されている、先にも書いたが、日本に観光に来た外国人のおみやげとしても人気である。外国人だけでなく、日本の若い女の子でも、けっこう人気のようである。

ただ、中には「それでいいのか?」と思わず突っ込みたくなるようなアクセサリーもあったりする。本書で紹介されている中では、ナポリタンのカチューシャがあったが、これなんかは実際に頭につけている女の子がいたら、絶対に二度見するに違いない。

ナポリタンのカチューシャ(FAKE FOOD HATANAKA)

ii-fake.com

食品サンプルが、こんなに多岐にわたっていて、単なる食品サンプルとしてだけではなく、様々なグッズとして人気となっていることは、なんとなく認識していたけれど、ここまでになっているとは思いもよらなかった。海外に日本の繊細さや技術をアピールする材料ともなっていて、クールジャパンの一翼を担っている面もあるのだと思う。これは、日本人として誇っていいことだろう。若干、ハメを外したりもしているみたいだけど、それも含めて新しい日本をアピールする材料として、食品サンプルが存在すると考えてもいいんだと思う。