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【書評】大崎梢「スクープのたまご」(文藝春秋)-スクープ合戦を繰り広げる週刊誌編集部に配属された女性記者が数々の修羅場を経験しながら事件記者として成長するお仕事小説

今年(2016年)に入って世間を騒然とさせるスクープを連発している週刊誌がある。

“センテンス・スプリング”こと「週刊文春」である。

スクープのたまご (文春e-book)

スクープのたまご (文春e-book)

 
スクープのたまご

スクープのたまご

 

世間的に週刊誌というのは、手段を選ばずえげつない方法でネタを仕入れ、強引な取材を展開し、派手なスクープを発信することに命をかけているハイエナのような集団だと見られている。好意的に見ている人もいるだろうが、大半の読者は批判的ではないか。

 

それでも、「週刊文春」は売れている。芸能人のゴシップ記事が掲載されれば売れ、政治家の金にまつわるスキャンダルが掲載されれば売れる。売れるから、記事はどんどん過激になっていく。過激になるからさらに売れる。

こういう週刊誌はどうやって作られているのだろうか。どんな人間が取材をし、記事を書いているのだろうか。

大崎梢「スクープのたまご」は、週刊誌の記者となった入社二年目の信田日向子が、事件取材の生々しい現場を経験することで成長していくお仕事小説である。

自分でも不思議なことに大手出版社の千石社に入社することができた日向子は、PR誌を編集する部署に配属された。1年後、「週刊千石」の編集部に配属された同期の桑原が、ストレスから身体を壊して異動することとなり、その後釜として日向子は「週刊千石」編集部に異動となる。

「週刊千石」は、千石社の主力週刊誌である。新人社員をはじめ若手社員の多くは「週刊千石」編集部の修羅場を経験し、記者として、そして出版人としてステップアップしていく。日向子もその一員となったのである。

週刊誌記者は、実に様々な仕事をしている。事件関係者の周辺取材として聞き込みや張り込みは日常業務。インタビュー取材をこなし、潜入取材も行う。必要とあらば24時間体制で取材にあたり、他誌を出し抜くようなスクープをものにしようと東奔西走する。

本書に登場する千石社や「週刊千石」のモデルは、文藝春秋であり「週刊文春」である。著者の大崎さんは、「週刊文春」編集部を取材し、実際の記者から話を聞いて、本書を執筆したそうで、その内容はかなりリアルなのだろう。「文春」が“センテンス・スプリング”と揶揄されているように、「週刊千石」も“サウザンド・ストーン”と呼ばれていたりするのも、ある意味ではリアルかも。

大崎さんの作品には、書店や出版社など出版業界を舞台にしたお仕事小説が多い。本書もその系列に連なる作品である。他の作品でも主人公をはじめ登場人物たちが自分の仕事を通じて成長していくが、本書でも日向子の成長が物語の軸のひとつになっている。それと、日向子に好意をもっていると思われる桑原が、今後日向子にどうアプローチしていくのか、桑原のアプローチに日向子が気づけるのかという恋愛模様も気になるところだ。もっとも、恋模様に関しては、日向子がちょっと鈍感なようで、きっと桑原の気持ちには気づいてない。日向子の成長と恋愛を軸に、シリーズ化していくんだろうな。