毎日、何かに追い回されているような気がする。仕事に追い回され、ローンの支払に追い回され、絶世の美女に追い回され…ることは残念ながらない(笑)。
これだけ、せわしなく何事かに追い回されていると、もうすべて投げ出して現実逃避したくなってしまう。そこで本書を読んでみた。
久住昌之「昼のセント酒」は、世間のみなさまが額に汗して働いている平日の真昼間に、町の銭湯でゆっくりと湯に浸かり、湯上がりの火照った身体をクールダウンすべく冷たい生ビールをグビグビとやるという背徳感に満ちた楽しみについて書かれたエッセイである。
表紙カバー折り返しには、
真っ昼間の、銭湯上がりの生ビール。これに勝てるヤツがいたら連れて来い!
とある。いやいや、そんなの勝てるヤツがいるわけがない。下戸だからお酒はちょっと、という方でも《生ビール》の部分を《コカ・コーラ》とか《コーヒー牛乳》とか、自分の好きな冷たい飲み物をあててみればよい。銭湯の大きな湯船にゆったりと浸かり、全身が水分を欲しているときに流し込む飲み物の至福は、なにものにも代え難い。
本書で訪れた場所、銭湯、お店は以下のとおり。
①浜田山:浜の湯→居酒屋「かのう」 ※浜の湯は2013年に廃業
②北千住:大黒湯→居酒屋「ほり川」
③三鷹:千代乃湯→焼鳥「万平」
④銀座:金春湯→蕎麦「よし田」
⑤立会川:日の出湯→もつ焼き「鳥勝」
⑥北海道:山鼻温泉屯田湯→ラーメン居酒屋「勝」 ※「勝」は既に閉店
⑦吉祥寺:弁天湯→ビアホール「キリンシティ」
⑧寛政町:安善湯→焼鳥「一休」
⑩神保町:梅の湯→居酒屋「兵六」
メインは東京とその近郊になるが、北海道の銭湯、店もある。ところどころ馴染みのない地名もあると思うので、いくつか説明しておくと、①浜田山は、東京都杉並区にある地名でわり閑静な住宅地。寛政町は横浜市鶴見区にある地名で京浜工業地帯の中にある工場の町である。
本好きのみなさんからすると、やはり⑩神保町が気になるのではないだろうか。神保町といえば古本の町。そんなところにも銭湯がある。本書でも紹介されているように、利用者は主に皇居ランナーのようだ。著者の久住さんはもちろん皇居ランナーではないが、それでも梅の湯でゆったりと湯に浸かり、神保町で70年近い歴史のある居酒屋「兵六」へと足を運ぶ。人生の楽しみ方は人それぞれということだ。
なお、現在(2016年4月~6月)、本書を原案とするドラマ「昼のセント酒」がテレビ東京系列で放送されている。本書では紹介されていない銭湯と居酒屋、食堂が毎週登場して、主人公を演じる戸次重幸が演技を超越してリアルに風呂と酒を楽しんでるんじゃないかというくらいいきいきと演じていて、みていると本当に羨ましくなる。
これから暑くなってくる季節。風呂あがりの冷たい生ビールを思う存分楽しめる季節だ。さて、今日は休日だし、家風呂だけど、ゆっくりと湯に浸かって、缶ビールでも飲むとしようか!