2月に日比谷のみゆき座で「キャロル」を観たときに、「リリーのすべて」の予告編をみた。
そのときは、主役のリリーを演じているのは女優だろうと考えていた。男役(アイナー役)のときは男装してして、リリーを演じるときは女優として演じているのだろうと。
ところが、エディ・レッドメインが「リリーのすべて」でアカデミー主演男優賞にノミネートされていると知って驚いた。リリーを演じていたのは男優だとわかったからだ。だけど、エディ・レッドメインがリリーを演じているとわかっていても、リリーを男が演じていると理解するまでには時間が必要だった。そのくらい、エディ・レッドメインのリリーは、女性らしさに満ちていたからだ。
美しすぎるエディ・レッドメイン!映画『リリーのすべて』特別映像
「リリーのすべて(原題:The Danish Girl)」は、世界で初めて性別適合手術を受けたデンマークの画家アイナー・ヴェイナー/リリー・エルベの人生を描いた物語である。
風景画家として評価を得ているアイナーは、同じく画家である妻ゲルダと結婚して6年になる。まだ子供はいないが、夫婦間の愛情はまったく色褪せていない。
ある日、モデルの女性が来られなくなったという理由で、アイナーはゲルダからモデルの代理になってほしいと頼まれる。女性物の靴下を身につけ、ドレスを胸にあてたとき、アイナーは衝撃を受ける。それは、彼の心のなかにある女性が目覚めた瞬間だった。
女装したアイナーをモデルとしてゲルダが描いた絵は評判となり、個展も開催されるようになる。あるとき、パーティーへの出席を拒むアイナーに、ゲルダは女装して出席することを提案する。そこから、アイナーの運命の糸は大きく回り始めていくことになる。
アイナーの中で、次第にリリーの存在が大きく強くなっていき、やがて、リリーこそが彼の本当の性になっていく。そこには、もうアイナーの存在はなかった。ついに彼は、性別適合手術を受けることを決意する。アイナー・ヴェイナーは消え、リリー・エルベへと生まれ変わるのだ。
本作が描くのは、身体と心の性別の乖離、いわゆる性同一性障害に懊悩するひとりの男の人生である。アイナー/リリーは、1930年に世界ではじめて、身体と心の性別を一致させるための性別適合手術を受けた実在の人物だ。彼が、自らの性同一性障害を認識し、苦悩し、手術に踏み切るまでの経緯が丁寧に描かれ、エディ・レッドメインの中性的(というより、ほぼ女性的)な美しさも相まって、実に官能的で魅惑的な作品になっている。
冒頭に書いた「キャロル」は、女性同士の恋愛を描いていた。そして、本作「リリーのすべて」は、性同一性障害を描いている。いずれも、マイノリティの物語だ。「キャロル」の原作が出版されたのが1950年代、「リリーのすべて」に描かれるリリー・エルベが生きた時代が1920年代から30年代なので、彼ら、彼女らが生きた時代には、マイノリティとして生きることが辛い時代だったに違いない。
彼/彼女たちのようなマイノリティが社会的にも認められる存在となってきたのは、ごく最近のことだ。今では、世界的にも同性婚は認められるところが多く、性同一性障害と性別適合手術に関しての理解も進んでいる。
LGBTと称されるマイノリティたちが当たり前に生活をし、当たり前に仕事をする社会が実現する時代が訪れることを知っていたら、もし今の時代にリリー・エルベが生きていたら、彼女はどんな生き方をしたのだろうか。
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