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【書評】紗倉まな「最低。」(KADOKAWA)ーAVの世界で生きる女性を描くことで見えてくる《最低》の本質。その先にある希望

現役AV女優が、AV業界を舞台にして描き出す赤裸々な業界ストーリー。

最低。

最低。

 

本書を手に取る人の多くは、きっとそういう内容を期待するのだろう。その期待は、あたっている部分もあるが、些細な一面でしかない。本書に描かれる女性たちは、それぞれに物語があり、彼女たちが生きる場所がアダルトビデオの世界であるというだけのことなのだ。

 

紗倉まな「最低。」は、4つの章で構成される連作短編集である。

それぞれの章には、

第1章 彩乃
第2章 桃子
第3章 美穂
第4章 あやこ

と、女性の名前が記されている。

家族との折り合いが悪く、自分の居場所が見つけられずにいる女の子は、スカウトされて飛び込んだAVの世界で自らの存在することの意味を探し求め、自分を必要としてくれる人たちがいることで安心感を得ようとする。

プロダクションを立ち上げ軌道に乗せるために懸命に働く男を支え、自らも女優としてアダルトビデオに出演してきた女は、いつしか変わっていった男のもとを離れていく。

夫とはセックスレス状態の主婦は、自らの性欲の捌け口としてAVプロダクションの門を叩き、アダルトビデオに出演する。そこには、ほんの僅かな夫への罪悪感がまとわりついている。

祖母と母と3人で暮らす少女は、母親が元AV女優であったという噂を耳にする。「AVしてたの?」と尋ねる娘に母は、その事実を認める。やがて少女は成長し、女としての艶やかさを身につけるようになっていく。

登場する女性たちは、それぞれの人生を生きている。そこには、女性たちの縮図のようなものが見えてくる。

そんな女性たちの物語が、「最低。」というタイトルに込められている。それは、最低の人生を生きているという悲壮感であるし、最低の親に育てられたという絶望感である。もしくは、最低限の幸せを求めても叶うことのない寂しさかもしれない。

だが、「最低。」とはもうそれ以上落ちることのない文字通りの最低なのである。最低を経験した人間にとって、あとは上昇していくだけだ。女性たちの希望が明確に描かれているわけではないのだけれど、「最低。」というタイトルには、その後の女性たちの幸せが暗示されていると望みたい。

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