今、読書会がちょっとしたブームになっているらしい。本が大好きな人たちが集まって、ひとつの本について語り合ったり、テーマにそって話し合ったりするのだそうだ。うん、それは楽しそう。
オフラインでの読書会に限らず、ツイッター上でのやりとりや、「読書メーター」や「本が好き!」など、読書家が集うSNSなどに参加して、本の感想を言い合ったり、自分が知らなかった作品についてオススメされたりするのは楽しいもので、思わず話が弾んでしまったりすることもある。
きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎)
- 作者: 都甲幸治,武田将明,藤井光,藤野可織,朝吹真理子,和田忠彦,石井千湖,阿部賢一,岡和田晃,江南亜美子,今井キラ
- 出版社/メーカー: リットーミュージック
- 発売日: 2016/01/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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きっとあなたは、あの本が好き。 連想でつながる読書ガイド (立東舎)
- 作者: 都甲幸治,武田将明,藤井光,藤野可織,朝吹真理子,和田忠彦,石井千湖,阿部賢一,岡和田晃,江南亜美子
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本書「きっとあなたは、あの本が好き。~連想でつながる読書ガイド」は、英米文学翻訳家の都甲幸治氏(主な訳書に、ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」など)が、翻訳家、作家、文学研究者、書評家といった《本読みのプロ》たちとともに、本について語り尽くす鼎談集であり、最高のブックガイドである。鼎談のお題とメンバーは以下のとおりとなっている。
ChapterⅠ.村上春樹が気になる人に 現代日本からアジア、アメリカへ
(都甲幸治、武田将明、藤井光)
ChapterⅡ.ルイス・キャロルが気になる人に あえて男だらけでアリスを読む
(都甲幸治、武田将明、藤井光)
ChapterⅢ.大島弓子が気になる人に 文化系女子の流れ
(都甲幸治、藤野可織、朝吹真理子)
ChapterⅣ.谷崎潤一郎が気になる人に 禁断の愛いろいろ
(都甲幸治、藤野可織、朝吹真理子)
ChapterⅤ.コナン・ドイルが気になる人に 小説の中にあるたくさんの「謎」
(都甲幸治、和田忠彦、石井千湖)
ChapterⅥ.J・R・R・トールキンが気になる人に ファンタジー初めの一歩
(都甲幸治、阿部賢一、岡和田晃)
ChapterⅦ.伊坂幸太郎が気になる人に 映画化されたベストセラー
(都甲幸治、阿部賢一、江南亜美子)
ChapterⅧ.太宰治が気になる人に ダメ人間の生態
(都甲幸治、阿部賢一、江南亜美子)
どうだろう、このラインナップ。メンバーの豪華さももちろんなのだが、とりあげるお題を見ているだけでも、心がザワザワとときめく感じがしてくるではないか。
例えば、「ChapterⅠ.村上春樹が気になる人に」では、村上春樹の作品世界について3人が語り、村上春樹に連なる他の作家の作品へと展開をしていく。武田将明氏は、「ノルウェイの森」に先行する日本文学として、古井由吉「杳子」をあげ、古井由吉から村上春樹への流れを、
(古井由吉「杳子」について)自分の感覚の世界と現実の世界の間にズレがあるというか、現実を自分のものとして把握できない根本的な恐れが描かれています。そういう現実から隔離されちゃったっていう感覚を、一般的なものとして書くことに成功したのが村上春樹と言えるのではないでしょうか。
と語る。
他に村上春樹に連なる作家として、イーユン・リーやパク・ミンギュといったアジア系の作家や柴田元幸氏によって翻訳紹介されてきたポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、村上自身が翻訳を手掛けるレイモンド・カーヴァーへと話が進んでいくのである。
「ChapterⅦ.伊坂幸太郎が気になる人に」には、「映画化されたベストセラー」とサブタイトルがあるように、原作と映像という観点で話が弾む。最初の都甲氏の、
学生と喋ってると、彼らが読書に対して抱いてる誤解って、大きく分けて二つあるんですよ。一つめは、外国語の原本と翻訳は同じだから、原書読んでも翻訳で読んでも変わらないと思ってること。ましてや翻訳が複数あっても、同じタイトルなんだから全部同じでしょって考える人が多い。それは全然違うんだって説得するのに何年もかかってしまいます(笑)。もう一つが、映画で見たんで、もう原作読まなくても大丈夫です、って言い出すパターン。
という発言から、本好きとしては「うんうん、あるある」と大きく首肯してしまう。小説が映像化されるときに必ず話題になるのが、「原作を読んでから映画を見るか、映画を見てから原作を読むか」ということなのだが、本好きたちからすると「映画見たから原作読まない」という発想は少ないと思う。そもそも原作となった作品やその作家に興味がなければ映画も見ないし、映画を見た以上は原作も気になる。原作を読まない場合もあるけれど、渡しの場合、それは「原作を読んでいる時間的な余裕がない」とか「タイミングを逸してしまって読まないまま今日に至る」といずれかである。
ChapterⅦの中で興味深かったのは「トレインスポッティング」の話題。私はこれ、映画は見たけど原作はタイミングを逸してしまって未読である。今回、本書を読んで、「これは改めて映画を見直して、原作本も読んでおかなければいかんな」と思ったところである。チャック・パラニューク「ファイトクラブ」もそう。原作のある映画は、映画だけ見て原作を読まないのは本当にもったいないことだと思う。
本書は、そのタイトル「きっとあなたは、あの本が好き。」にあるように、「その作家やその作品が好きなあなたなら、きっとあの作家、あの本も好きだと思うよ」という、本好き同士の会話を書籍化したものだ。だから、前述した村上春樹から導き出される作家や作品の数々のように、それぞれのChapterでお題となっている作家や作品を起点に、「それならこの作家も面白いよ」とか「だったらこっちの作品も読んでみてよ」と、互いに盛り上がる感じがリアルに感じられて面白い。なにより、メンバーが紹介する本がどれも面白そうで、次々と読みたい本が増えていってしまう。
いわゆる「ブックガイド」、「読書ガイド」と呼ばれるジャンルの本は、これまでにもたくさん出版されているし、本書もその系譜としては一般的なものだろうと思う。だけど、これまでに何冊か読んできたブックガイドに比べると、本書は印象が違っていた。それは、「本を紹介してやろう」という部分にあまり重きを置いていないからではないかと思う。結果として、ブックガイドになっているのだけれど、「紹介する」という部分よりも、メンバーが楽しく本についての話をしているのを横で聞いているという面での楽しさの方が前面に感じられる気がするのだ。
この感覚は、読書会で仲間内での他愛無い読書談義を聞いている感覚と同じなのかもしれない。構えずに楽しく聞いているだけだから、それだけで楽しいし、押し付けがましく本を紹介されるよりも、逆に心に印象が刻まれるのではないだろうか。
何はともあれ、本書を読み通して、私の「読みたい本リスト」には、またたくさんの本が追加されてしまった。尽きることのない「読みたい本リスト」をうっとりと眺めながら、「さて、どの本から読み始めようか」と悩むひとときが、私にとっての至福の時間になっていくのである。
- 作者: ルイス・キャロル,河合祥一郎
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シャーロック・ホームズの冒険(新潮文庫) シャーロック・ホームズ シリーズ
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