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ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

オ・ジョンヒ「鳥」(段々社)-訳ありな人たちが暮らす長屋は姉弟にとっての鳥籠。自由であるかのように見えて囚われている小鳥たち

書評 海外文学

オ・ジョンヒ「鳥」は、11歳の姉・宇美(ウミ)と9歳の弟・宇一(ウイル)の物語。姉・宇美の視点で語られる。

鳥 (“アジア文学館”シリーズ)

鳥 (“アジア文学館”シリーズ)

 

宇美=宇宙で一番美しい娘、宇一=宇宙で一番カッコイイ男。そんな名前とはかけ離れた生活を送っている姉弟。母親は、貧困と夫の暴力に耐えかね、姉弟を置き去りにして家を出て行った。父親は、姉弟を親戚に預けて働きにでた。親戚の間をたらい回しにされた姉弟は、子供らしさを失い、世間を冷めた眼で見るようになる。

冬休みが終わるある日、父親が姉弟を引き取りに来る。父親は、姉弟を連れて、これから暮らす長屋に向かう。そこには、見知らぬ女性がいた。金髪で真っ赤な唇の女を、父は「新しいお母さん」と紹介する。こうして、長屋での暮らしが始まる。父親は仕事のため、長く家を留守にする。嫉妬深く、疑心の塊である父親は、女を束縛する。そんな二人の様子を、姉の宇美は冷ややかに見つめる。

長屋に暮らすのは、誰もが訳ありそうで、個性的な面々だ。トラック運転手の李さんは鳥を飼っていて、その鳥が女房だという。工場で働いている文さん夫婦は、「工場さんち」と呼ばれている。母屋に住んでいるのは大家のおばあさん一家で、身体が不自由で寝たきりの英叔(ヨンスク)おばちゃんとその旦那さんが暮らしている。

本書のタイトル「鳥」が表すのは、宇美と宇一の姉弟であり、長屋の住人たちである。そして、彼らが住まう長屋は、彼らを閉じ込める《鳥かご》である。その場所は、姉弟にとって幸せをもたらす場所には、なり得ない。父親と新しい母と姉弟の暮らしは、幸福と呼ぶには程遠い。

家庭的に恵まれず、孤独の中で生きるしかない姉弟にとって、得体のしれない、だけどどこか似たような境遇の住人が集まって暮らす長屋=鳥かごは、どのような場所を意味しているのだろう。新しい母親にも蒸発され、日雇いの現場に出たまま帰ってこない父親。弟も不良たちとつるむようになっていく。その行き先には、ただただ不幸しか見えない。